管理画面のROASは目標に届かないのに、月商そのものは落ちていない。
減っているのは新規顧客数だけ、という状態です。
指名検索で買った人と、広告で初めて知って買った人が、同じ売上として数えられていることが原因でした。
この記事では、全体ROASが目標の6割だった自社ECが、12週間で新規ROASと粗利ROASを立て直すまでを週単位で追います。
ROAS未達の多くは配信ではなく、指名とリピートを新規獲得の成果に混ぜて数えていることから起きます。
指名を除いた新規ROASと、粗利率を掛けた粗利ROASで見直すと、止める広告と伸ばす広告が入れ替わります。
- 最初の2週間は配信を動かさず、重複計上と指名の混在の点検だけに使う
- 目標ROASは業界平均ではなく、粗利率と12か月のリピート粗利から逆算する
- 低ROASキャンペーンの停止とP-MAXの一気の増額は、どちらも粗利を減らす
※本記事の数値は、実案件で起きやすい状況を一般化したモデルケース(シミュレーション)です。特定企業の実績ではありません。
目次
- 3か月で動いたのは、全体ROASではなく新規ROASと粗利ROASでした
- 全体ROASが目標の6割だったとき、数字の中で起きていたこと
- Week1〜2:配信は動かさず、重複計上と指名の混在を洗い出す
- Week3〜4:目標ROASを、粗利率と変動費から逆算して置き直す
- Week5〜6:効かなかった打ち手を2つ、先に書きます
- Week7〜12:指名を切り離し、注文単価を上げ、粗利で配分し直す
- 効かないケースと、やってはいけない対処
- 同じ進め方を自社で再現するための、週次の型
- よくある質問
- まとめ
3か月で動いたのは、全体ROASではなく新規ROASと粗利ROASでした

12週間で最も判断を変えたのは、指名を除いた新規ROASです。
1.15倍から1.73倍へ、50%の改善でした。
全体ROASも2.62倍から4.41倍に上がりましたが、この数字だけを見ていた期間は新規顧客数が減り続けていました。
粗利ROASは1.10倍から1.85倍で、広告費と同額の粗利しか生まない状態を抜けました。
広告費は月720万円のまま、増やしたのは配分の精度だけです。
作業の大半は、広告の設定ではなく、何をROASと呼ぶかを決め直すことに使いました。
表1|Before/After(モデル試算・月次)
| 指標 | Before(Week0) | After(Week12) | 変化 |
|---|---|---|---|
| 月間広告費 | 7,200,000円 | 7,200,000円 | 同額 |
| 広告経由売上 | 18,864,000円 | 31,752,000円 | +68.3% |
| 全体ROAS | 2.62倍 | 4.41倍 | +1.79pt |
| 新規ROAS(指名を除く) | 1.15倍 | 1.73倍 | +0.58pt |
| 粗利ROAS | 1.10倍 | 1.85倍 | +0.75pt |
| CVR | 1.12% | 1.58% | +0.46pt |
| 平均注文単価 | 6,280円 | 7,140円 | +13.7% |
| 新規顧客数 | 1,190件 | 1,540件 | +29.4% |
※Beforeの全体ROASは、媒体合算の申告値3.00倍から重複計上分を除いた実力値です。粗利ROASは全体ROASに粗利率42%を掛けた値です。
広告費を動かさなかったのは意図的です。
予算を変えると、配分の効果か総額の効果か分からなくなります。
全体ROASが目標の6割だったとき、数字の中で起きていたこと

前提を先に開示します。
日用消費財を売る自社ECで、月間広告費は720万円です。
読み替えるときに確認したい前提
- 粗利率42%(全SKU加重平均。決済手数料と送料は別途控除)
- 平均注文単価6,000円台の、繰り返し購入型の商材
- 媒体はMeta広告・Google P-MAX・ショッピング広告・指名検索の4系統
- 主要SKUで2〜4週分の在庫を保持している
Week0の全体ROASは、媒体合算の申告値で3.00倍でした。
社内の目標は5.00倍で、達成率は60%です。
ところが月商そのものは横ばいでした。
減っていたのは新規顧客数で、3か月で1,410件から1,190件になっています。
原因は指名検索でした。
単体ROASが7.99倍と出ており、この数字が全体平均を押し上げて非指名の弱さを覆い隠しています。
非指名だけで見ると、Metaは1.70倍、P-MAXは2.40倍です。
粗利率42%を掛けた時点で、赤字に近づく水準です。
指名検索の広告費70万円は全体の9.7%ですが、売上の29.7%を占めていました。
未達だったのはROASではなく、新規獲得の採算そのものでした。
Week1〜2:配信は動かさず、重複計上と指名の混在を洗い出す

最初の2週間、入札・予算・キャンペーン構成・クリエイティブは触っていません。
触ったのは計測の設定と、集計の定義だけです。
数字が信用できない状態では、翌週の変化が施策なのか修正なのか区別できないためです。
媒体合算の売上は21,600,000円、カートの実注文から抽出した広告経由売上は18,864,000円でした。
差は12.7%で、大半は媒体をまたいだ二重計上です。
Metaは7日クリック・1日ビュー、Google側はラストクリック基準で、同じ注文を両方が数えていました。
- アトリビューション窓を揃えるMetaを7日クリック・ビュースルー無しに変更し、Google側と比較できる状態にしました。
- 判断の基準をカートに置く媒体の申告値は配信最適化用と割り切り、採算判断はカートの実注文で行うと決めました。
- UTMの命名規則を1本化する媒体・キャンペーン種別・指名フラグの3要素を、すべてのURLに同じ順序で入れ直しました。
指名フラグを入れたことで指名経由と非指名経由を分離でき、これが以降の判断すべての土台になりました。
P-MAXの検索語句も確認しました。
ブランド名を含むクリックが月18,400件流れ込み、非指名で再計算するとP-MAXの実力は1.55倍まで下がります。
2週間の点検で分かったのは、配信が悪いのではなく、成果の帰属先が間違っていたということです。
Week3〜4:目標ROASを、粗利率と変動費から逆算して置き直す

旧目標の5.00倍には根拠がありませんでした。
同業の記事にあった数字を、そのまま置いていただけです。
表2|1注文あたりの内訳と、逆算した目標ROAS(モデル試算)
| 項目 | 売上比 | 1注文あたり(6,280円) |
|---|---|---|
| 売上 | 100.0% | 6,280円 |
| 粗利(原価58.0%を控除) | 42.0% | 2,638円 |
| 決済手数料 | 3.4% | 214円 |
| 送料・梱包・同梱物 | 7.6% | 477円 |
| 広告費に回せる上限(貢献粗利) | 31.0% | 1,947円 |
| 確保したい貢献利益 | 8.0% | 502円 |
| 広告費の上限 | 23.0% | 1,445円 |
| 逆算した全体ROAS目標 | — | 4.35倍 |
| 逆算した粗利ROAS目標 | — | 1.83倍 |
※固定費は含みません。固定費まで回収する設計にすると、目標が高すぎて配信量を確保できなくなります。
全体ROASの目標は5.00倍から4.35倍になりました。
下げたのではなく、根拠のある位置に置き直したという整理です。
新規ROASは別の考え方で決めています。
初回で回収しきる必要がなく、12か月のリピートまで含めて判断できるためです。
12か月で1.4回の追加注文があり、追加分の貢献粗利2,726円と初回の1,947円で回収可能額は4,673円です。
平均注文単価6,280円をこれで割ると、新規ROASの下限は1.35倍になります。
Before時点は1.15倍で、下限を15%下回っていました。
新規を獲れば獲るほど回収できない状態です。
ROAS未達の正体は、目標の高さではなく、新規獲得が回収ラインを割っていたことでした。
POINT
リピート回数は、直近12か月に初回購入した顧客だけを母集団に計算します。
全顧客平均だと、優良顧客が混ざって過大に出ます。
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Week5〜6:効かなかった打ち手を2つ、先に書きます

目標を置き直した直後に、ROAS改善の定番とされる打ち手を2つ試して外しました。
Week5:ROASの低いキャンペーンを止める
MetaのプロスペクティングはROAS1.10倍で最下位でした。
ここを止めれば全体平均が上がる、という判断です。
2週間止めた結果、全体ROASは2.62倍から2.71倍に上がりました。
一方で指名検索の表示回数が18%減り、新規顧客数は月換算で210件減りました。
粗利では月48万円のマイナスです。
プロスペクティングは指名検索の入口で、最下位のROASはその役割を反映していないだけです。
この打ち手は元に戻し、新規顧客数と指名の表示回数で評価する運用に変えました。
Week6:P-MAXの予算を一気に増やす
P-MAXのROASは2.40倍でMetaより高い水準でした。
そこで予算を260万円から420万円へ、62%増やしています。
結果は10日で出ました。
学習が入り直してCPCが1.34倍になり、ROASは1.85倍まで落ちています。
増分の多くは既存顧客とブランド指名で、新規顧客数は6%しか増えていません。
予算は260万円に戻し、以降はキャンペーン単位の変更幅を前週比20%以内に制限しました。
低ROASのキャンペーンを止める判断は、それが指名の入口かどうかを確認してからにしてください。
Week7〜12:指名を切り離し、注文単価を上げ、粗利で配分し直す

ここまでの進め方が機能しない条件を、先に書きます。
Week7〜8:P-MAXが指名を吸い込む状態を止める
ブランド除外リストを登録し、P-MAXがブランド名クリックを取得しないようにしました。
既存顧客リストもシグナルから外しています。
ブランド名クリックは月18,400件から2,100件に減り、その需要は指名検索キャンペーンに戻りました。
指名検索のROASは7.99倍から10.4倍に上がり、P-MAXは一時1.98倍に下がりました。
改悪ではなく、実力値が表に出ただけです。
商品フィードも、データ面を4点直しました。
- 商品タイトルに容量・入数・用途を追加
- GTIN欠損の解消(対象412SKU)
- 在庫2週分を切ったSKUの自動除外
- カスタムラベルに粗利率3段階を付与
タイトル修正でショッピング広告のCTRは1.9%から2.6%になり、欠品SKUの月38万円も浮きました。
Week8終了時点で、新規ROASは1.38倍、全体ROASは3.05倍です。
注意
ブランド除外の適用直後は、指名側の予算が不足します。
同時に指名キャンペーンの上限を引き上げてください。
Week9〜10:注文単価を上げて、新規に払える上限を引き上げる
獲得単価の改善はWeek7〜8で取り切ったため、ここは注文単価を上げる側に寄せました。
送料無料の閾値を5,000円から6,800円に変更しました。
平均注文単価6,280円のすぐ上が狙いです。
直後の1週間はCVRが1.06%に落ちたため、カート内に「あと1点で送料無料」の提案を足しました。
4週目にはCVRが1.44%まで戻り、送料無料の達成率は41%から68%になりました。
Metaも、単品の価格訴求から「何か月分でいくら」のまとめ買い訴求に変えました。
平均注文単価は6,280円から6,940円、セット購入比率は12%から29%です。
注文単価が660円上がったことで、新規1件に払える上限が約1,000円増えました。
Week11〜12:粗利ROASを基準に予算を配分し直す
最後の2週間で、Week7に付与したカスタムラベルを使います。
粗利率3段階ごとに許容獲得単価を設定しています(高5,400円/中3,900円/低2,300円)。
低粗利SKUはP-MAXから外し、ショッピング広告の手動入札に移しました。
自動入札では、売れやすい低粗利品に予算が流れるためです。
この1点だけで、P-MAXの粗利ROASは0.98倍から1.62倍になりました。
媒体間の配分もP-MAXを減らして組み替えた結果、全体ROASは4.41倍、新規ROASは1.73倍になりました。
粗利ROASは1.85倍で、目標の1.83倍を上回っています。
配分の変更が効いたのは、Week1〜10で判断材料を揃えてあったからです。
効かないケースと、やってはいけない対処
1つ目は、在庫が慢性的に薄いケースです。
広告を増やしても在庫で止まるため、配分の議論そのものが成立しません。
この場合は欠品SKUの広告を止め、入荷週に予算を寄せるほうが効きます。
2つ目は、リピートがほとんど発生しない商材です。
下限1.35倍は、12か月で1.4回の追加購入を前提にした数字です。
単発購入が中心なら初回で回収する設計に切り替え、下限は3.2倍前後に置きます。
3つ目は、月予算が100万円を下回るケースです。
キャンペーンを細かく分けると、どれも学習が完了しません。
ROAS未達のときに選びがちな、避けたい対処
- 指名検索キャンペーンを増額して、全体ROASの数字だけを整える
- 低ROASキャンペーンを、役割を確認せずに一括停止する
- P-MAXの予算を一度に50%以上増やす
- 目標ROASを、同業の記事や媒体の推奨値からそのまま持ってくる
- クーポンの発行頻度を上げて、注文数だけを増やす
クーポンの増発は特に判断を誤らせます。
注文数と全体ROASは上がりますが、粗利ROASは下がります。
目標ROASを他社から借りると、粗利率の差がそのまま誤差になります。
ROASは事業の数字であって、媒体の管理画面が決める数字ではありません。
同じ進め方を自社で再現するための、週次の型

12週間を通して、運用のリズムは変えていません。
週の型を固定したことが、比較可能性を保った理由です。
- 月曜:数字を揃えるカートと媒体の乖離率を確認します。10%を超えた週は、判断を止めて原因を先に潰します。
- 火曜:3本の指標で判断する新規ROAS、粗利ROAS、全体ROASの順に見ます。全体ROASを先に見ると、指名の増減に引きずられます。
- 水曜:変更を1つだけ入れる対象は1キャンペーンまで、幅は前週比20%以内に固定します。2つ動かすと翌週の解釈ができません。
- 金曜:撤退基準を先に書くどの数字がどこまで動かなければ戻すかを、実行前に文章で残します。
最も効いたのは金曜の撤退基準です。
Week5とWeek6を2週間で切り上げられたのは、これがあったためです。
週次のレポートは、新規ROAS・粗利ROAS・新規顧客数・平均注文単価・CVRの5つに絞りました。
全体ROASは月次でのみ確認します。
表3|状況別に、何を先に見て何を見送るか
| いま起きている状況 | 先に見る指標 | 先にやること | いま見送ること |
|---|---|---|---|
| 全体ROASは高いが、粗利が残らない | 粗利率別の売上構成比 | 低粗利SKUを自動入札から外す | 予算の一律増額 |
| 全体ROASは高いが、新規顧客数が減っている | 指名を除いた新規ROAS | 指名とP-MAXの費用・売上を分離する | 低ROASキャンペーンの停止 |
| 媒体合計の売上が、カートの実売上を上回る | 媒体合算とカートの乖離率 | アトリビューション窓の統一とUTM整備 | 入札やクリエイティブの調整 |
※「いま見送ること」は、判断材料が揃う前に着手すると効果を測れなくなる打ち手です。
この型は、媒体が2つ以上あり指名検索が発生しているECであれば、そのまま使えます。
よくある質問
最初の2週間、本当に配信を動かさなくていいのですか
配信を止める必要はありません。動かさないのは入札、予算、キャンペーン構成、クリエイティブ、LPです。この期間はアトリビューション設定の統一、UTMの整備、カートと媒体の突合に使います。媒体合算売上とカートの実売上が10%以上ずれたまま施策を打つと、翌週の変化が計測修正の結果なのか施策の結果なのか判定できなくなります。
指名を除いた新規ROASは、どうやって出せばいいですか
高度な連携は不要です。まずUTMに指名フラグを足し、指名検索キャンペーンを識別できるようにします。次にカート側で「初回購入かどうか」の判定列を用意し、指名キャンペーンを除いた広告費で初回購入者の売上合計を割ります。注文エクスポートに顧客タグと参照元があれば、週1回のCSVで算出できます。
粗利ROASと、いわゆるMER(全体売上÷広告費)はどう使い分けますか
役割が違います。MERは広告以外の流入も含めた事業全体の広告効率で、月次の予算総額を決めるときに使います。粗利ROASは広告経由売上に粗利率を掛けた値で、キャンペーンや商品カテゴリの配分を決めるときに使います。本記事では総額を固定していたためMERは使っていませんが、総額を変える局面では両方が必要です。
まとめ
- ROAS未達の多くは配信ではなく、指名とリピートを新規獲得の成果に混ぜて数えていることが原因
- 目標ROASは、粗利率と変動費、12か月のリピート粗利から逆算して置き直す
- 低ROASキャンペーンの停止とP-MAXの一気の増額は、どちらも粗利を減らす結果になった
- 判断は新規ROAS、粗利ROAS、全体ROASの順で行い、変更は週1つ・前週比20%以内に限る
同じ予算でも、何をROASと呼ぶかを変えるだけで配分の答えは変わります。
ROASの数字は追えているのに、粗利と新規顧客数が動かないまま止まっている場合
TimeValue株式会社のKAIZENは、運用代行だけでなく、計測の点検・目標指標の設計・カート側の改善までを一括で支援します。
Week1〜2にあたる計測の棚卸しから入るため、初月は配信を大きく動かしません。