「BtoB SaaS CPA 相場」で調べても、自社に使える答えは出てきません。
CV定義もACVも商談化率も、会社ごとに違うからです。
「うちのCPAは高いのか」に答えを出せるのは、業界平均ではなく自社のユニットエコノミクスだけです。
この記事では、ARPAと継続月数から許容CPAを逆算する手順を、計算式と前提条件つきで置きます。
CPA相場に、そのまま使える数字はありません。
許容CPAは「LTV ÷ 目標CAC倍率 × 受注率 × 商談化率」で自社ごとに決まります。
- 許容CPA=(ARPA×粗利率×継続月数)÷目標CAC倍率×受注率×商談化率
- 資料請求とデモ依頼を、同じ目標CPAで運用しない
- 媒体をまたいでCPAを横並びにしない
※本記事の数値は、実案件で起きやすい状況を一般化したモデル試算です。特定企業の実績ではありません。自社の数値に読み替えてください。
目次
- CPAが高いかどうかは、相場ではなく自社の数字で決まります
- 許容CPAは、LTVから4段階で逆算します
- ACVとCV種別で、許容CPAは20倍以上ひらきます
- 媒体別に、同じCPAで比べてはいけない理由
- 現状CPAと許容CPAの比で、次にやることを決めます
- 効かないケースと、やってはいけない対処
- 2週間で自社の許容CPAを出す手順
- よくある質問
- まとめ
CPAが高いかどうかは、相場ではなく自社の数字で決まります
相場を調べる人が本当に知りたいのは、平均値ではありません。
「うちのCPAは高いのか、低いのか」という一点です。
この問いに、業界平均は答えを出せません。
高いか低いかを決めるのは、1件のリードから将来いくら回収できるかです。
CPA2万円が高いか安いかは、自社の許容CPAを出すまで判定できません。
許容CPAが3万円の会社には安く、8,000円の会社には2.5倍の高値です。
さらに厄介なのは、流通している相場データの前提がほとんど書かれていないことです。
CV定義がホワイトペーパーDLなのか、デモ依頼なのか。
この違いだけで、許容CPAは20倍以上変わります。
前提が書かれていない数値は、比較対象として使えません。
使うと、目標CPAのほうが実態から外れていきます。
POINT
相場を知りたいという要望の中身は、ほぼ「目標CPAを決めたい」です。
目標CPAは外から借りるものではなく、自社のLTVから計算するものです。
許容CPAを計算する前に、手元にそろっているか確認する6項目
- ARPA(1社あたり月額単価)の直近12か月平均
- 粗利率(サーバー費・サポート人件費を引いたあと)
- 月次解約率、または実測の平均継続月数
- CV種別ごとのリード件数(資料請求・トライアルを分けたもの)
- CV種別ごとの商談化率(リード→商談の通過率)
- 商談からの受注率と、受注までのリードタイム
特に落ちやすいのが、CV種別ごとの商談化率です。
広告側とCRM側でCVをひもづけていないと、この数字は出ません。
許容CPAは、LTVから4段階で逆算します
許容CPAは、LTVを起点に4段階で下ろします。
途中の1段階でも飛ばすと、数字の意味が変わります。
段階1:LTVを粗利ベースで出す
LTV=ARPA × 粗利率 × 平均継続月数、で計算します。
売上ベースではなく、粗利ベースで出すのがポイントです。
売上ベースで出すと、許容CACが実力より大きく出ます。
SaaSでもサーバー費とサポート人件費は原価に乗るためです。
平均継続月数は、月次解約率の逆数で近似できます。
解約率3.3%なら、1÷0.033で約30か月です。
ただし、この近似が使えるのは解約率が安定している場合だけです。
立ち上げ期はぶれるので、コホートの実測を使います。
ARPA5万円・粗利率80%・継続30か月なら、LTVは1,200,000円です。
段階2〜4:倍率・受注率・商談化率で下ろす
許容CAC=LTV ÷ 目標CAC倍率、です。
倍率3なら、1,200,000 ÷ 3 = 400,000円が上限になります。
この40万円は、広告費だけの枠ではありません。
インサイドセールスの人件費も同じ枠の中です。
次に、許容商談単価=許容CAC × 受注率、です。
受注率25%なら、400,000 × 0.25 = 100,000円になります。
最後に、許容CPA=許容商談単価 × 商談化率です。
商談化率20%なら、100,000 × 0.20 = 20,000円になります。
表1|許容CPAの逆算4段階(モデル試算)
| 段階 | 計算式 | 置いた前提 | 結果 |
|---|---|---|---|
| 段階1:LTV | ARPA × 粗利率 × 平均継続月数 | 50,000円 × 80% × 30か月 | 1,200,000円 |
| 段階2:許容CAC | LTV ÷ 目標CAC倍率 | 1,200,000円 ÷ 3 | 400,000円 |
| 段階3:許容商談単価 | 許容CAC × 受注率 | 400,000円 × 25% | 100,000円 |
| 段階4:許容CPA | 許容商談単価 × 商談化率 | 100,000円 × 20% | 20,000円 |
※前提:ARPA5万円/粗利率80%/継続30か月(月次解約率3.3%)/商談化率20%/受注率25%/目標CAC倍率3。自社の値で再計算してください。
検算します。
リード100件・CPA2万円なら広告費200万円、商談20件、受注5件です。
CACは 2,000,000 ÷ 5 で400,000円となり、許容CACと一致します。
目標CAC倍率を3に置く根拠
3という数字は、業界平均ではありません。
粗利ベースのLTVのうち3分の1を獲得に使う、という費用配分の置き方です。
もう一つの根拠が、回収期間=許容CAC ÷(ARPA × 粗利率)です。
モデル試算では10か月となり、12か月以内に収まります。
倍率が2を下回ると、想定より解約が早いだけで赤字に転びます。
逆に5を超えると、入札で勝てる面が減り、獲得量が急に落ちます。
倍率を決めるのは財務の判断であって、広告運用の判断ではありません。
注意
広告費だけをCACに入れて計算すると、許容CPAが実際より大きく出ます。
営業人件費とツール費を含めた「全社CAC」でも一度計算し、両方を並べて見てください。
ACVとCV種別で、許容CPAは20倍以上ひらきます
許容CPAを動かす要因は、ACV(年間契約額)とCVの種類の2つです。
まずACVから見ます。
大型契約ほど商談化率と受注率は下がり、一方で継続月数は伸びます。
この2つは逆方向に働くので、両方を入れて計算します。
ACV30万円クラスなら、LTV60万円・許容CAC20万円・許容CPA12,500円です。
ACV500万円クラスは、商談化率12%・受注率15%で許容CPA90,000円になります。
同じ目標CAC倍率3で計算しても、許容CPAは7.2倍ひらきます。
だから、エンタープライズとSMBを同じ目標CPAで運用すると危険です。
SMB側の安いリードだけが増え、エンタープライズの獲得が止まります。
次にCV種別です。
許容CACを40万円に固定し、商談化率と受注率だけを変えて計算します。
表2|CV種別ごとの許容CPA(モデル試算・許容CAC40万円で固定)
| CV種別 | 商談化率 | 受注率 | 許容CPA | この種別の性格 |
|---|---|---|---|---|
| ホワイトペーパーDL | 5% | 18% | 3,600円 | 件数は最も取れる。情報収集段階が中心 |
| ウェビナー申込 | 8% | 20% | 6,400円 | 当日出席率で実質の商談化率が半減する |
| 製品資料の請求 | 12% | 22% | 10,600円 | 比較検討に入った層が混ざる |
| 無料トライアル登録 | 35% | 28% | 39,200円 | 自走されると商談化しないこともある |
| 問い合わせ(フォーム) | 55% | 25% | 55,000円 | 件数は少ない。採用などの問い合わせも混ざる |
| デモ依頼 | 70% | 30% | 84,000円 | 最も受注に近い。件数の上限が低い |
※許容CPA=400,000円×商談化率×受注率。通過率のみ変えたモデル試算です。自社では実測値を使ってください。
下限3,600円から上限84,000円まで、23倍の差です。
これを1つの目標CPAで運用すれば、安い種別だけが増えます。
CPAが下がったのに商談が増えないという相談の多くは、ここが原因です。
ホワイトペーパーDLの構成比が上がっただけ、という状態です。
そのため、CV種別ごとにコンバージョンアクションを分け、キャンペーンごとに違う目標CPAを設定します。
ウェビナー申込には注意点があります。
申込数ではなく当日の出席数を分母にしないと、通過率が過大に出ます。
出席率が50%なら、実質の商談化率は4%です。
許容CPAも6,400円ではなく3,200円になります。
POINT
ACVクラスが2つ以上あるなら、キャンペーンも目標CPAも分けます。
分けられない事情があるなら、少なくとも週次のレポートは分けて見てください。
自社の許容CPAを、その場で一緒に計算しませんか
TimeValue株式会社では、無料マーケティング診断を毎月10社限定で実施しています。お手元の数値から、CV種別ごとの許容CPAを算出します。
- LTVと許容CACの計算に、抜けている費用がないか
- CV種別ごとに目標CPAが分かれているか
- 媒体ごとの評価軸が、CPAのままになっていないか
オンライン30〜45分/資料の事前提出は不要です。
媒体別に、同じCPAで比べてはいけない理由
媒体別のCPAを横並びにすると、たいていMetaが最も安く見えます。
安く取れるのは事実ですが、取れているリードの中身が違います。
比べるべきなのはCPAではなく、CPAと許容CPAの比です。
媒体ごとに許容CPAが違うので、同じ物差しは使えません。
ここでも許容CACを40万円に固定し、媒体ごとの通過率で割り戻します。
Google検索の指名は、商談化率60%・受注率35%で許容CPA84,000円です。
Meta広告はホワイトペーパーDL中心なので、許容CPA3,600円になります。
LinkedIn広告は役職指定の資料請求が中心で16,800円、比較サイトは6,400円が目安です。
許容CPAは媒体間で23倍ひらくので、CPAの大小と評価は一致しません。
Metaのリードが3,000円で取れていても、許容内ぎりぎりです。
指名検索が5万円でも、許容84,000円に対しては十分に安い水準です。
そもそも指名検索は、広告が作った需要ではありません。
「最も効率が良い媒体」と読んで予算を寄せても、需要の総量は増えません。
Metaやウェビナー共催は、その上流を作る役割です。
短期のCPAだけで止めると、数か月後に指名検索が減ります。
媒体は役割で3つに分け、別々のKPIで評価します
- 刈り取り(指名検索・比較競合語):商談数と受注数を見て、許容CPAの上限まで使い切る
- 課題層の発見(一般課題語・LinkedIn):商談化率と商談単価を、許容CPA比で管理する
- 認知(Meta・共催・比較サイト):指名検索数と直接流入の推移で見て、単体CPAでは判断しない
なお比較・一括資料請求サイトは、1件の請求が複数社へ同時に配られます。
初動が翌営業日になるなら、許容CPAをさらに下げて計算します。
現状CPAと許容CPAの比で、次にやることを決めます
許容CPAが出たら、現状CPA ÷ 許容CPA を計算します。
これが判断の入口です。
この比が1を超えていれば高い、下回っていれば安い。
ただし、それだけで打ち手は決まりません。
もう一つ、商談化率が想定どおりかを同時に見ます。
表3|条件別・CPAの評価と次にやること
| 現状CPA ÷ 許容CPA | 商談化率 | 評価 | 次にやること |
|---|---|---|---|
| 0.7以下 | 想定どおり | 安い。投資余地あり | 予算を増やす。許容CACに達するまで上限を上げる |
| 0.7以下 | 想定の半分以下 | 安いだけ。質が落ちている | CV種別の構成比を確認。予算増は保留する |
| 0.7〜1.0 | 想定どおり | 適正 | 現状維持。CV種別ごとの内訳を月次で点検する |
| 1.0〜1.5 | 想定どおり | やや高い | クエリと配信面の整理。入札の一律変更はしない |
| 1.5超 | 想定どおり | 高い | 配分を変える。効いていない面から順に絞る |
| 1.5超 | 想定の半分以下 | 高いうえに質も低い | 出稿を絞り、CV定義と計測の点検から入る |
| 計算できない | 不明 | 判定不能 | 解約データと商談データの整備が先。CPA議論は保留 |
※「想定どおり」は、計算に使った商談化率の±20%以内を指します。判定は3か月移動平均で行います。
いちばん見落とされるのが、上から2行目です。
CPAは安いのに、商談が増えていない状態を指します。
広告の指標だけを見ると、数字は良く見えます。
気づくのは四半期の商談数が未達になったあとです。
CPAと商談化率を並べないレポートは、判断材料になりません。
なお、比較対象として使えるのは自社の過去・媒体間・CV種別間の3つだけです。
ただし、CV定義を変えた月をまたぐ比較はできないので、変更日を記録に残します。
効かないケースと、やってはいけない対処
許容CPAを出しても、そのあとの動かし方を間違えると悪化します。
最も損失が大きいのは、一律の目標CPA設定です。
CV種別ごとの許容CPAが23倍違うのに、1つの数字で縛るためです。
自動入札は、安い種別が同じCVに入っていればそこへ寄ります。
結果としてCPAは目標に届きますが、理由は獲得効率ではなく構成比の変化です。
次に避けたいのが、入札の一律引き下げです。
上位表示シェアが落ち、質の高い面から先に取れなくなります。
即停止も避けます。
止めると学習が失われ、再開時のCPAが上がるためです。
停止する前に、まず予算配分だけを2週間動かして様子を見ます。
注意
許容CPAを超えているからといって、上流の媒体をすぐ止めないでください。
指名検索の件数と直接流入は、止めてから2〜3か月遅れて落ちます。
そもそも、許容CPAを正しく計算しても効かないケースがあります。
1つ目は、商談データが広告に接続されていない場合です。
種別ごとの商談化率が出せず、許容CPAを分解できません。
2つ目は、CV件数が月10件を下回る場合です。
商談化率の推定幅が広すぎて、許容CPAが安定しません。
この場合は、フォーム到達率など件数の多い中間指標で判断します。
3つ目は、営業体制が変わった直後です。
商談化率と受注率が動くので、3か月は前提を固定できません。
4つ目は、価格改定の直後です。
ARPAが変われば、LTVも許容CPAも作り直しになります。
2週間で自社の許容CPAを出す手順
ここまでの内容を、2週間の作業に落とします。
広告の設定は、Day13まで触りません。
- Day1〜2:ARPAと粗利率を確定する直近12か月の月額売上を契約社数で割ります。粗利率はサーバー費・外部API費・サポート人件費を引いたあとの値を使います。
- Day3〜4:平均継続月数を出す解約率が安定しているならその逆数、ぶれているならコホートの残存率から出します。幅が出やすい項目なので、上限と下限の2通りを計算します。
- Day5〜6:目標CAC倍率を決める回収期間から逆算します。実績が浅いなら4〜5、データがそろっているなら3が目安です。経営側と合意し、文書に残します。
- Day7〜8:CV種別ごとの通過率を出すCRMから種別ごとのリード数・商談数・受注数を抽出します。ウェビナーは申込ではなく出席を分母にします。
- Day9〜10:許容CPAを一覧にする許容CAC × 受注率 × 商談化率で算出し、媒体別にも展開します。表2と同じ形で自社版を作ります。
- Day11〜12:現状CPAと突き合わせる直近3か月の実績CPAを同じ粒度で並べ、表3の判断基準に当てはめます。単月ではなく3か月移動平均で見ます。
- Day13〜14:目標をキャンペーンに落とすCVを種別ごとに分け、キャンペーン単位で目標CPAを設定します。同時に変えるのは2つまでにし、4週間後に判定します。
この2週間で、目標CPAの根拠が社内で共有できる形になります。
順番を逆にすると、目標が変わったのか施策が効いたのかを切り分けられません。
目標CPAの根拠を作る作業は、広告の設定変更より先に置きます。
作った許容CPAは、四半期ごとに更新します。
ARPA・継続月数・通過率のどれかが動けば、許容CPAも動くためです。
よくある質問
業界平均のCPAを知る意味は、まったくないのですか
目標設定には使えませんが、桁の確認には使えます。自社の計算で許容CPAが数百円と出たときに、前提のどこかが間違っている可能性に気づけます。ただし、その平均値のCV定義やACVレンジが書かれていない場合、桁の確認以上の用途はありません。
立ち上げ期で、継続月数の実績がありません
実績がない期間は、目標CAC倍率を高めに置いて安全側で運用します。継続24か月・倍率5のように保守的な前提で計算し、許容CPAを低めに設定してください。6か月ごとに残存率を確認し、実績が見えた時点で倍率を3へ寄せます。
許容CPAを超えている媒体は、すぐ止めるべきですか
単月で超えただけなら止めません。3か月移動平均で超えているなら、まず予算配分だけを2週間動かし、それでも変わらないときに停止を検討してください。上流の媒体は、止めてから2〜3か月遅れて指名検索が減ることがあります。
まとめ
- 「うちのCPAは高いのか」に答えられるのは、業界平均ではなく自社のユニットエコノミクス
- 許容CPA=(ARPA×粗利率×継続月数)÷目標CAC倍率×受注率×商談化率
- 目標CAC倍率3は業界平均ではなく、費用配分と回収期間から出てくる置き方
- ACVクラスで7倍以上、CV種別で20倍以上、許容CPAはひらく
- 媒体はCPAで横並びにせず、役割ごとに別のKPIで評価する
- 比べてよいのは自社の過去・自社の媒体間・自社のCV種別間の3つだけ
相場を探す時間を、自社の許容CPAを計算する時間に振り替えてください。
必要な材料は6つだけで、2週間あれば根拠のある目標が作れます。
許容CPAの算出から、キャンペーン単位の目標設定まで組み直します
KAIZENは、広告の運用だけでなく、CV設計・計測・商談データの接続までを一括で見る支援です。
目標CPAが根拠なく決まっている状態を、計算に置き換えます。