広告予算の相談は「いくら使うか」から始まりますが、決着がつくのは「どう割るか」を決めたあとです。
総額に根拠がないまま媒体へ振り分けると、配分が当たったのか外れたのかを後から検証できません。
比べる基準が存在しないからです。
この記事では、売上目標から総額を逆算し、媒体の役割とフェーズに応じて割り付けるまでの手順を整理します。
広告予算の総額は、売上目標から逆算した必要CV数と許容CPAの積で決まります。
配分は、媒体の役割とフェーズに合わせて変えます。
- 総額は「売上目標 → 必要受注数 → 必要商談数 → 必要CV数 × 許容CPA」で出す
- 媒体は役割ごとに評価指標を分ける。指名検索と認知面を同じCPAで比べない
- 配分の変更は学習期間が終わってから。毎月組み替えると判断材料が消える
※本記事の数値は、実案件で起きやすい状況を一般化したモデルケース(シミュレーション)です。特定企業の実績ではありません。
目次
- 配分とは、必要CV数を媒体に割り当てることです
- 総額は、売上目標から逆算して出します
- 媒体は役割が違うので、同じCPAで並べません
- フェーズが変われば、配分の考え方も変わります
- 予算レンジが変わると、諦めるものも変わります
- 制作費と計測費は、広告費と別の枠で持ちます
- 配分を変えていい時期と、待つべき時期があります
- 効かないケースと、やってはいけない対処
- よくある質問
- まとめ
配分とは、必要CV数を媒体に割り当てることです
広告予算の話は、総額から始まることがほとんどです。
「今期は月300万円で」と決まり、そこから媒体に振り分けます。
この順番だと、配分の良し悪しを後から判定できません。
総額に根拠がないため、CPAが上がっても配分の問題なのか総額の問題なのかを切り分けられないからです。
逆に、総額を自社の数字から逆算しておくと、議論は一気に簡単になります。
必要CV数が決まっていれば、金額の分け合いではなく件数の割り当てになるからです。
配分とは、予算を媒体に割ることではなく、必要CV数を媒体ごとに割り当てることです。
必要なのは精密な予測ではありません。
受注単価も受注率も、直近3か月の実数を置けば十分です。
逆算を一度やっておくと、増減の相談は「もう50万円ほしい」から「CV17件分ほしい」に変わります。
総額は、売上目標から逆算して出します
逆算は、売上から下に降りていくだけの計算です。
売上目標、必要受注数、必要商談数、必要CV数、必要予算の5段で、歩留まりを1つずつ掛けていきます。
表1|売上目標から月間広告予算までの逆算(モデル試算)
| 段 | 使う数字 | 計算 | 結果 |
|---|---|---|---|
| 1. 月間売上目標(新規) | 年間目標 ÷ 12 | — | 3,000万円 |
| 2. 必要受注数 | 平均受注単価 300万円 | 3,000 ÷ 300 | 10件/月 |
| 3. 必要商談数 | 商談→受注率 25% | 10 ÷ 0.25 | 40件/月 |
| 4. 必要CV数 | CV→商談化率 40% | 40 ÷ 0.4 | 100件/月 |
| 5. 必要予算 | 運用目標CPA 30,000円 | 100 × 30,000 | 300万円/月 |
※【モデル試算】BtoB・高単価商材を想定した数値例です。単価と歩留まりを自社の実数に置き換えてください。
大事なのは300万円という結果ではなく、どの数字が動くと予算が動くのかが見えることです。
たとえば商談化率が40%から30%に落ちると、必要CV数は133件、必要予算は400万円に増えます。
広告を触らなくても、営業側の歩留まりで予算が3割変わるということです。
許容CPAは、LTVの粗利から決める
許容CPAは、売上ではなく粗利から出します。
売上ベースで置くと、原価と運用コストを回収できません。
- 粗利額を出す平均受注単価300万円 × 粗利率40% で、受注1件あたりの粗利は120万円になります。
- 許容CACを決める粗利の1/3を獲得コストの上限に置くと、受注1件あたり40万円です。
- CV単位に引き直す商談化率40% × 受注率25% で、CV→受注率は10%。40万円 × 10% で上限CPAは40,000円です。
- 運用目標を別に置く上限の75%にあたる30,000円を運用の目標CPAにします。
許容CAC比率の1/3は、目安として置いた数字です。
回収を早めたい局面では1/4、投資期なら1/2まで広げることもあります。
上限CPAをそのまま運用目標に置くのは避けます。
月の途中で数字が振れたときに、すぐ上限を割ってしまうからです。
上限の70〜80%を目標に置けば、月内の変動を吸収できます。
この差分が、新しい面やクリエイティブを試す余地になります。
POINT
許容CPAは全社で1つとは限りません。
商材別・流入経路別に受注率が違うなら、その単位で分けて持つほうが配分の精度は上がります。
他社の水準が気になる場合はBtoB SaaSのCPA相場とベンチマークも参考になります。
ただし相場は根拠ではなく、自社の許容CPAが出た後の答え合わせに使う数字です。
媒体は役割が違うので、同じCPAで並べません
配分でいちばん多い失敗は、全媒体を同じCPA目標で並べることです。
指名検索のCPAは、たいてい一般検索より大きく低く出ます。
ここだけを見て指名に寄せると、数か月で頭打ちになります。
指名検索の上限は、ブランドを知っている人の数で決まるからです。
表2|媒体グループごとの役割と、見るべき指標
| 媒体グループ | 役割 | 主に見る指標 | 配分での位置づけ | やりがちな誤り |
|---|---|---|---|---|
| 指名検索 | 既存需要の刈り取り | CPA、インプレッションシェア | 最優先で確保する | 安いからと増額し、上限に当てて無駄打ちする |
| 一般検索(非指名) | 顕在層の獲得 | CPA、CVR、検索語句の質 | 主戦場。配分の中心 | 部分一致を放置し、関連の薄い語に配信される |
| ディスプレイ・P-MAX | 配信面の拡張 | CPA、新規ユーザー比率 | 伸びしろの検証枠 | 指名検索を食った分をP-MAXのCVとして数える |
| SNS(Meta・X・LINEなど) | 潜在層への接触と認知 | CTR、動画視聴、指名検索の増分 | 中期の仕込み | 1か月のCPAだけを見て停止する |
| リターゲティング | 取りこぼしの回収 | CPA、フリークエンシー、到達率 | 小さく固定する | 配分を増やして「CPAが良い媒体」と錯覚する |
※媒体名ではなく役割でまとめています。同じ媒体でも、設計によって役割は変わります。
指名検索のCPAが安いのは、広告の力ではありません
指名検索で検索する人は、すでに社名やサービス名を知っています。
その認知を作ったのは、展示会や紹介、SEO記事、SNS広告といった別の接点です。
つまり指名検索のCPAは、上流の投資の成果を受け取っているだけです。
ここを「効率の良い媒体」として扱って上流を削ると、半年後に指名検索の母数が減ります。
そのときには、原因が配分変更だったことを思い出せません。
注意
リターゲティングも同じ構造です。
母数となる訪問者を作っているのは別の媒体なので、リタゲのCPAだけを根拠に配分を寄せると、数か月で配信対象が枯れます。
役割の違う媒体を同じ土俵に乗せないために、評価の単位を分けます。
刈り取り面はCPAで、拡張・認知面は指名検索数やサイト全体のCV数の増分で見ます。
同じ表に全媒体のCPAを並べると、議論は低い順に進みがちです。
役割ごとにブロックを分けるだけで、比較の誤りは減ります。
社内向けの見せ方は広告の効果を経営層に説明する資料の作り方も合わせて確認してください。
フェーズが変われば、配分の考え方も変わります
同じ事業でも、フェーズが違えば正しい配分は変わります。
立ち上げ期に分散させると勝ち筋が見つからず、拡大期に絞りすぎると天井に当たります。
フェーズの判定を先にしてから、配分を決めます。
立ち上げ期:あえて広げない
立ち上げ期の目的は、CPAを下げることではありません。
「この訴求とこの面なら取れる」という組み合わせを1つ見つけることです。
そのため媒体は最小限に絞り、かわりにLPとクリエイティブの検証に予算を割きます。
この時期に見る数字は、CPAより先にCV数そのものの多さです。
週に数件しか出ない状態では、良し悪しの判定ができません。
拡大期:平均CPAではなく限界CPAで判断する
拡大期で使う指標は、平均CPAではなく限界CPAです。
限界CPAとは、予算を1段階増やしたときに追加で取れたCVの単価を指します。
平均が2万円でも、増額分だけを見ると6万円ということが起こります。
表3|増額したときの限界CPA(モデル試算)
| 月予算 | CV数 | 平均CPA | 増加CV | 限界CPA | 判断 |
|---|---|---|---|---|---|
| 100万円 | 50件 | 20,000円 | — | — | 基準 |
| 150万円 | 70件 | 21,400円 | 20件 | 25,000円 | 許容内。増額を継続 |
| 200万円 | 83件 | 24,100円 | 13件 | 38,500円 | 上限CPA40,000円に接近 |
| 250万円 | 90件 | 27,800円 | 7件 | 71,400円 | 上限超過。ここで止める |
※【モデル試算】平均CPAだけを見ると250万円でも27,800円で許容内に見えます。増額分の効率は、その手前で上限を超えています。
拡大の止めどきを決めるのは平均CPAではなく、増額分だけを取り出した限界CPAです。
このケースでは、200万円が実質的な上限になります。
そこから先は、同じ媒体を伸ばすより別の面を開けたほうが効率的です。
停滞期:媒体を足す前に受け皿を点検する
CV数が伸びなくなったとき、最初に出る案は「新しい媒体を足す」です。
ただ、原因が媒体側にないことも多くあります。
クリック数もインプレッションも維持できているのにCVだけ落ちている場合、原因はLPかフォームです。
この状態で媒体を足すと、壊れた受け皿に流入だけが増えます。
まず見るのは、CVR、フォーム完了率、直帰率の3つです。
ここが横ばいで表示回数も頭打ちなら、そのときに初めて新規媒体の検討に入ります。
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- 売上目標から逆算した必要CV数と、現状のCV数の差
- 媒体別の役割と、いま設定されているCPA目標の整合
- 限界CPAから見た、増額余地と止めどき
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予算レンジが変わると、諦めるものも変わります
予算レンジが変わると、配分比だけでなく戦い方そのものが変わります。
大手と同じ配分を真似ると、どの面も中途半端になります。
諦めるものを先に決めることが、少額運用の出発点です。
月10万円なら、ディスプレイ、SNS認知、動画制作、複数LPは切ります。
キーワードを10〜30語に絞り、LPを1枚だけ磨き込みます。
このレンジで媒体を3つも4つも並べるのが、いちばん多い失敗です。
月50万円なら、検索を軸に拡張面を1つだけ検証枠として持ちます。
認知面と検証枠を常設できるのは、月300万円になってからです。
少額で媒体を広げると、学習が回りません
少額のときに媒体を絞るのは、手間を減らすためではありません。
自動入札の学習と、人間側の判断の両方を成立させるためです。
月20万円・CPA1万円なら、月のCV数は約20件です。
1媒体に集約すれば週5件ですが、4媒体に分けると1媒体あたり週1.3件まで落ちます。
週5件あれば3〜4週で判断できますが、週1〜3件では6〜8週かかります。
注意
主要媒体の自動入札は、一定期間内にまとまったCVが発生して初めて配信先を絞り込みます。
週あたりのCV数が1件前後の状態では、機械側も学習を終えられません。
これは予算の大小ではなく、1つの学習単位に何件のCVが入るかの問題です。
予算が少ないほど媒体もキャンペーンも統合し、分けるのはCV数が増えてからにします。
件数が足りないときは、CV地点を資料請求など手前に移す方法もあります。
ただし商談化率は下がります。
CV定義を変えたら、許容CPAも計算し直してください。
予算レンジを上げる前に確認すること
- いまの媒体の限界CPAが、まだ上限CPAの範囲に収まっているか
- クリエイティブの本数が、配信量の増加に耐えられるか
- 増えたCV数を、営業・インサイドセールスが受けきれるか
- 媒体を増やしても、計測が重複なく数えられる状態か
制作費と計測費は、広告費と別の枠で持ちます
広告予算の中に制作費と計測費を含めると、制作と計測から先に削られます。
配信を止めると数字が即座に落ちるのに対し、制作を止めても今月の数字は変わらないからです。
影響が出るのは2〜4か月後です。
素材が疲弊してCTRが落ち、CPAが上がり始めます。
そのときには、原因が制作停止だったと特定できません。
目安として、制作費は広告費の10〜20%です。
動画を主軸にする場合は、この比率が上振れします。
計測整備費を別枠にする理由は、もう1つあります。
計測が壊れていると、媒体別のCPAが比較できず、配分の判断そのものが成り立たないからです。
配分を変えていい時期と、待つべき時期があります
配分の失敗で最も多いのは、変える内容ではなく変える頻度です。
週次で動かすと、変更と結果の対応が取れなくなります。
変更を入れたら、最低2週間は触らないと決めます。
自動入札はこの期間に配信先を学習し直すため、途中で予算を動かすとやり直しになります。
変えてよいのは、CPAが上限の2倍を超える状態が3週続いたときです。
在庫や人員が受けきれなくなった場合も、事業側の都合として即座に上限を下げます。
繁忙期が近いなら、山の2〜3週前から段階的に上げます。
山が来てから上げると、学習期間が商戦期に重なります。
逆に待つべきなのは、配分変更から10日しか経っていないときです。
新規媒体のCV数が週3件未満のままなら、停止も増額もしません。
大きな組み替えは四半期に1回、月次では10〜20%の微調整にとどめます。
注意
学習期間中の変更は、それまでに貯まったデータを一度リセットします。
悪化しているように見えても、途中で手を入れると判断に必要な材料ごと失うことになります。
効かないケースと、やってはいけない対処
配分の見直しは、やり方を間違えると状況を悪くします。
頻度の高い3つを挙げます。
やってはいけない1:ROASの低い媒体を機械的に止める
ROASが低い媒体を止めると、翌月の全体ROASはたいてい下がります。
止めた面が、他の媒体のCVを作っていたからです。
媒体別ROASは、ラストクリックで割り振られた数字にすぎません。
止める前に確認するのは、その媒体の役割です。
刈り取り面なら停止の判断は成立しますが、認知面では成立しません。
やってはいけない2:毎月、配分を組み替える
月次のレポート会議で、毎回配分を変えるパターンです。
一見すると改善に見えますが、先月と今月のどちらの変更が効いたのか分かりません。
その結果、何年運用しても自社の勝ち筋が言語化されません。
毎月動かしたくなる場合、原因はレポートの見方にあります。
週次の推移を並べると、多くは通常の変動だと分かります。
やってはいけない3:余った予算を月末に消化する
月末に予算が余り、駆け込みで増額するケースです。
短期間で無理に消化するため効率の悪い面に予算が流れ、限界CPAが悪化します。
さらに悪いのは、翌月の学習に悪いデータが残ることです。
余った予算は、翌月の検証枠かクリエイティブ制作に振り替えます。
注意
「予算消化率」をKPIに置いている組織では、この行動が制度的に促されます。
評価指標を消化率からCV数・CPAに変えないと、現場の判断だけでは直りません。
効かないケース:配分を変えても数字が動かないとき
配分をどう変えてもCPAが動かないことがあります。
この場合、問題は広告の外にあります。
LP、フォーム、訴求、営業側の対応速度のいずれかです。
媒体を変えてもCVRがほぼ同じなら、原因は受け皿にあります。
逆に媒体ごとにCVRが大きく違うなら流入の質の問題で、これは配分で改善できます。
運用体制そのものを見直す段階なら、代理店を変えるべきか、内製化すべきかの整理も合わせて確認してください。
よくある質問
売上目標が決まっていない場合、総額はどう決めればいいですか
粗利から逆に置きます。直近3か月の平均受注単価と粗利率を出し、許容CACを決めてください。そのうえで、いま確保できる予算で何件のCVが取れるかを計算すると、達成できる受注数が出ます。この数字を営業側と共有すれば、そこから逆に売上目標が決まります。順番はどちらからでも構いませんが、粗利と歩留まりの実数だけは先に必要です。
媒体別の配分比は、業界の平均に合わせるべきですか
合わせる必要はありません。配分比は、商材の検索需要量、ブランド認知の有無、検討期間の長さで大きく変わります。指名検索が月に数十件しかない商材では、指名への配分は数%にしかなりません。平均値は自社の位置を確認する参考にはなりますが、配分の根拠にはなりません。自社の媒体別CV数と限界CPAから決めてください。
学習期間はどれくらい待てばいいですか
媒体の案内では1〜2週間とされることが多いですが、実務では週あたりのCV数で決まります。週5件以上出ていれば2週間で傾向が見えます。週1〜3件なら6〜8週かかります。目安として、変更後に30〜50件のCVが貯まるまでは判断を保留してください。件数で管理すると、予算規模が変わっても同じ基準が使えます。
まとめ
- 総額は「売上目標 → 必要受注数 → 必要商談数 → 必要CV数 × 許容CPA」で逆算する
- 許容CPAはLTVの粗利から出し、上限CPAと運用目標CPAを分けて持つ
- 媒体は役割ごとに評価指標を分け、指名検索と認知面を同じCPAで比べない
- 立ち上げ期は媒体を絞り、拡大期は限界CPAで増額の上限を測る
- 少額のときに媒体を広げない。週あたりCV数が減ると学習も判断も止まる
- 制作費と計測整備費は、広告費と別の枠で確保する
- 配分の大きな変更は四半期に1回。学習期間中は触らない
配分の正解は、業界の平均ではなく自社の歩留まりの中にあります。
配分を決める土台から、まとめて整えます
KAIZENは、許容CPAの設計と媒体の役割定義、計測の整備までを一括で支援します。
配分の議論が感覚論になるのは、判断の土台が揃っていないからです。
数字の根拠を先に作り、そのうえで媒体配分を組み直します。