代理店との契約で確認すべき条項

契約の検討がマーケティング部門の外で行われるからです。
法務は条文の整合を見ますが、運用で困る条項は運用を知らないと見つかりません。
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目次
目次
- 代理店との契約が、ひな形のまま通ってしまうのはなぜか
- 法務が見るものと、見ないもの
- 解約の条項で、何を見るのか
- 予告期間の長さが、意思決定の速さを決める
- 成果物と制作物の権利は、どう書かれているか
- 使えることと、改変できることは違う
- 再委託の範囲は、どこまで認めるのか
- 禁止より、把握を目的にする
- データと計測の取り扱いは、契約のどこに書くのか
- 生まれるデータの種類を、先に並べる
- 報酬の条項で、金額以外に見るところ
- 料率の対象が、何を指すか
- 揉めたときに効く条項は、どれか
- 成果の保証は、行動を歪める
- 条項の見直しに入る前に
- 法務に投げるときに、一覧を添える
- よくある質問
- まとめ
契約の検討がマーケティング部門の外で行われるからです。
法務は条文の整合を見ますが、運用で困る条項は運用を知らないと見つかりません。
代理店との契約が、ひな形のまま通ってしまうのはなぜか
契約の検討がマーケティング部門の外で行われるからです。
法務は条文の整合を見ますが、運用で困る条項は運用を知らないと見つかりません。
代理店との契約書は、多くの場合、代理店側のひな形が起点になります。
そのまま法務に回り、目立った不利がなければ締結されます。
問題が出るのは、解約や成果物の扱いで揉めたときです。
法務が見るものと、見ないもの
法務は、責任の範囲、損害賠償の上限、準拠法といった項目を確認します。
一方で、アカウントを誰が持つか、報告の頻度はどうか、データを引き上げられるかは、事業側の論点です。
ここは事業側が指摘しないと、条項に入りません。
揉めるのは、終わるときだけ
契約期間中は、条項を読み返す機会がありません。
読み返すのは、関係を終えるときか、成果が出ないときです。
そのときには、書かれていないことは主張できません。
契約で揉める場面と、根拠になる条項
| 場面 | 問われること | 該当する条項 |
|---|---|---|
| 代理店を変える | いつまでに伝えればよいか | 解約の予告期間 |
| 制作物を他社で使いたい | 使えるのか | 成果物の権利 |
| アカウントを引き継ぎたい | 渡してもらえるのか | データとアカウントの帰属 |
| 実務者が別会社だった | 認めていたのか | 再委託の範囲 |
| 成果が出ない | 何を約束していたのか | 業務の範囲と報告の義務 |
| 費用の内訳が不明 | 開示を求められるか | 費用の開示 |
マーケティング側が、先に論点を出す
法務に投げる前に、事業側が確認したい項目を一覧にします。この一覧がないと、法務は一般的な確認だけで返してきます。
解約の条項で、何を見るのか
予告期間と、期間内に発生する費用の2つです。
予告期間が長いと、変更を決めてから実際に移るまでが延びます。
解約の条項は、締結時にはほとんど議論されません。
実際には、最も効く条項です。
予告期間の長さが、意思決定の速さを決める
予告が3か月なら、変更を決めてから3か月は現状が続きます。
その間の成果が落ちることを見込んでおく必要があります。
最低契約期間の有無
初年度は解約できないという条件が付くことがあります。
初期の設定や移行に費用がかかるための条件ですが、その費用の額と釣り合っているかを見ます。
解約の条項で確認すること
| 項目 | 確認すること | 望ましい状態 |
|---|---|---|
| 予告期間 | 何か月前の通知が必要か | 1か月から2か月 |
| 最低契約期間 | 途中解約ができない期間があるか | ないか、初期費用と見合う |
| 中途解約金 | 発生するか、いくらか | 算定根拠が明記されている |
| 予告期間中の業務 | 通常どおり継続されるか | 継続が明記されている |
| 解約時の引き渡し | 何を渡すかが書かれているか | 対象が列挙されている |
予告期間中の業務の水準を、書いておく
解約を伝えた後、対応が落ちることがあります。
予告期間中も通常どおりの業務を行うことを、条項に入れます。
引き渡しの対象を、列挙する
解約時に渡すものを一切の資料と書くと、何が渡るか曖昧です。アカウントの権限、制作データ、過去の実績データ、設定の内容を個別に書きます。
成果物と制作物の権利は、どう書かれているか
多くのひな形では、代理店側に残る形になっています。
自社で作り替えたい素材があるなら、締結の前に扱いを決めます。
制作物の権利は、契約終了後に問題になります。
使い続けられるのか、他社に渡して改変できるのかが論点です。
使えることと、改変できることは違う
契約終了後も使用を認める条項はよくあります。
ただ、改変を認める条項は別です。
他社に運用を移すとき、素材を編集できないと実質的に使えません。
制作物の扱いの型
| 型 | 契約終了後の使用 | 改変 | 他社への提供 |
|---|---|---|---|
| 権利が代理店に残る | 認められないことがある | 不可 | 不可 |
| 使用のみ許諾 | 可能 | 不可 | 不可 |
| 改変を含む許諾 | 可能 | 可能 | 条件付き |
| 権利を発注側に移す | 可能 | 可能 | 可能 |
| 共有とする | 条件による | 協議による | 協議による |
第三者の素材が含まれる場合
撮影した写真、契約した出演者、購入した素材。
これらには別の制限がかかっていることがあります。
使用できる期間と範囲を、制作物ごとに確認します。
元データを渡す対象に入れる
書き出された画像や動画だけでは、改変ができません。編集可能な元データを引き渡しの対象に含めるかどうかを、締結時に決めます。
再委託の範囲は、どこまで認めるのか
全面的に禁止すると実務が回りません。
事前の通知を条件にし、誰が実務を行うかが分かる形にします。
広告の実務は、複数の会社に分かれていることがあります。
制作、運用、計測が別会社ということも珍しくありません。
禁止より、把握を目的にする
再委託を全面的に禁じると、提案の幅が狭まります。
目的は禁じることではなく、誰が実務を担っているかを把握することです。
再委託の条項の設計
| 項目 | 緩い設計 | 厳しい設計 | 実務的な落としどころ |
|---|---|---|---|
| 再委託の可否 | 自由 | 全面禁止 | 事前の通知を条件に可 |
| 再委託先の開示 | 不要 | 事前承認 | 社名と担当範囲を開示 |
| 秘密保持の継承 | 明記なし | 同等以上を義務 | 同等以上を義務 |
| 責任の所在 | 不明確 | 元請けが全て負う | 元請けが全て負う |
| 海外への委託 | 明記なし | 禁止 | 事前の申告を要する |
責任の所在は、元請けに残す
再委託を認めても、発注側の窓口は1社です。
再委託先の不備であっても、元請けが責任を負う形にします。
データを扱う範囲は、特に確認する
顧客のデータを扱う業務を再委託する場合は、取り扱いの条件が引き継がれる必要があります。個人に関わるデータの扱いは、掲載時点の最新の公式ガイドラインで確認してください。
データと計測の取り扱いは、契約のどこに書くのか
業務の範囲と、引き渡しの条項の両方に書きます。
どちらか一方だけだと、期間中は使えても終了時に引き上げられません。
広告の運用で生まれるデータは、契約書で扱いが決まっていないことが多い領域です。
生まれるデータの種類を、先に並べる
配信の実績、計測の設定、顧客リスト、分析のために作ったデータ。
種類ごとに、誰のものかが変わります。
データの種類と、契約での扱いを、項目ごとに見ていきます。
配信の実績については、生まれる場所は媒体のアカウント、帰属の考え方はアカウントの持ち主に従う。
計測の設定については、生まれる場所は自社のサイト、帰属の考え方は自社のもの。
顧客リストについては、生まれる場所は自社の保有、帰属の考え方は自社のもの。
分析用に加工したデータについては、生まれる場所は代理店側、帰属の考え方は契約で定めないと渡らない。
代理店の独自の知見については、生まれる場所は代理店側、帰属の考え方は渡らないのが通常。
加工したデータの扱いを、明記する
代理店が分析のために作った集計や資料は、定めがないと引き渡しの対象になりません。
月次で提出される報告のもとになるデータを、対象に含めるかを決めます。
計測の環境は、年々変わる
計測の条件は、媒体や基盤の側の方針で変わります。
GA4では、2026年6月15日より広告データ共有の可否が同意モードのad_storageのみで決まる形になりました。
Googleは2025年10月17日に、Privacy Sandbox関連技術の大半を終了すると発表しています。
こうした変更に誰が追随するかを、業務の範囲に書いておきます。書かれていないと、変更のたびに追加の費用の交渉になります。
報酬の条項で、金額以外に見るところ
何に対する対価かの定義と、変動する条件です。
料率だけを見て比較すると、含まれる業務の差が見えません。
報酬の条項は金額に目が行きますが、範囲の定義のほうが揉めます。
料率の対象が、何を指すか
媒体費に対する料率なのか、総額に対するものなのか。
媒体費に何を含めるかも、会社によって違います。
報酬の条項で確認することを、項目ごとに見ていきます。
料率の対象については、確認することは媒体費のみか、制作費や手数料を含むか。
最低報酬については、確認することは出稿が減ったときの下限額はあるか。
含まれる業務については、確認することは運用、制作、分析、会議のどこまでか。
追加費用の発生条件については、確認することはどこから別料金になるか。
規模による料率の変更については、確認することは出稿額が増えたとき料率は下がるか。
支払いの時期については、確認することは媒体費の立て替えがあるか。
含まれない業務を、先に列挙する
含まれる業務を並べるより、含まれない業務を並べるほうが実務的です。
追加費用が発生する場面を、締結時に具体化します。
規模が変わったときの見直しを、条項に入れる
出稿額が大きく変わったとき、料率を見直す協議を行う旨を入れておきます。入れていないと、規模が倍になっても料率が据え置かれます。
揉めたときに効く条項は、どれか
報告の義務と、費用の開示です。
成果の保証ではなく、状況を把握できる条項が実際には役に立ちます。
成果を契約で保証させようとする発想がありますが、実務では機能しにくい条項です。
成果の保証は、行動を歪める
成果の数値を契約に書くと、その数値を達成しやすい施策に寄ります。
数値の定義をめぐる争いも起きます。
効くのは、見えるようにする条項
何をやったかが分かること。
いくらかかったかが分かること。
この2つがあれば、成果が出ないときに議論ができます。
契約に入れると効く項目を、項目ごとに見ていきます。
報告の頻度と様式については、効く場面は成果が落ちたとき、入っていないとは報告の形が代理店の都合で変わる。
費用の内訳の開示については、効く場面は費用対効果を問うとき、入っていないとは何にいくらかかったか分からない。
担当体制の明示については、効く場面は担当が交代したとき、入っていないとは体制の変化を把握できない。
定例の開催義務については、効く場面は関係が薄れたとき、入っていないとは接点が減っても指摘できない。
是正の手続きについては、効く場面は問題が続いたとき、入っていないとは改善を求める根拠がない。
是正の手続きを、段階で書く
いきなり解約ではなく、書面での指摘、改善期間、その後の判断という段階を書きます。
段階があると、関係を壊さずに改善を求められます。
不満の内容は、役職で分かれる
Testifyが2026年5月に実施した調査では、代理店への不満として経営層は費用が成果に見合わないが56.3%、マーケティング責任者は成果不振の説明不足が53.1%を挙げていました。費用の開示と報告の義務は、この2つに直接対応する条項です。
条項の見直しに入る前に
現行の契約書を読み、運用との食い違いを洗い出すところからです。
実態と契約が離れている項目が、次に揉める場所です。
契約の見直しは、更新の3か月前から始めます。
契約を見直す順序を、項目ごとに見ていきます。
1については、やることは現行の契約書を全文読み、論点を書き出す、期間の目安は1週間。
2については、やることは実際の運用と契約の記載が食い違う項目を特定する、期間の目安は1週間。
3については、やることは解約、成果物、データ、報酬の4つを重点的に確認する、期間の目安は2週間。
4については、やることは事業側が求める条項を一覧にする、期間の目安は1週間。
5については、やることは法務に一覧を添えて相談する、期間の目安は2週間。
6については、やることは代理店側と条項の協議を行う、期間の目安は1か月。
7については、やることは合意した内容を覚書または新契約にする、期間の目安は2週間。
8については、やることは次回の更新時期を記録し、見直しを定例化する、期間の目安は継続。
法務に投げるときに、一覧を添える
契約書だけを渡すと、一般的な確認しか返ってきません。
事業側が困っている項目を添えると、実務に効く指摘が返ります。
見る数字を決める
数字は説明のための仮の値です。
たとえば予告期間が3か月、年間の媒体費が1億2,000万円だとします。
変更を決めてから移行が完了するまでに6か月かかるなら、その間に動く金額は6,000万円です。
この金額が、予告期間を交渉する根拠になります。
契約まわりで定点確認することを、項目ごとに見ていきます。
契約の更新時期については、確認の頻度は四半期、見ることは更新の3か月前に着手できているか。
実態と契約の食い違いについては、確認の頻度は年1回、見ることは運用が契約の範囲を超えていないか。
報告様式が契約どおりかについては、確認の頻度は月次、見ることは指定した項目が維持されているか。
費用の内訳の開示については、確認の頻度は四半期、見ることは内訳が出ているか。
担当体制の変更については、確認の頻度は随時、見ることは契約に定めた体制と合っているか。
途中で変えた内容は、覚書に残す
運用の中で取り決めを変えることがあります。
口頭のまま進めると、担当が変わったときに消えます。
次の更新時期を、カレンダーに入れる
更新の議論は、期限が近づいてから始まります。
3か月前に着手できるよう、予定として記録しておきます。
契約の条項で何を見ればよいか分からない場合は、無料相談で現状の取り決めを整理するところから始められます。発注の条件ごと見直す段階ならWeb集客改善サービスもあります。
よくある質問
代理店の契約書はひな形のままでよいですか
法務は責任の範囲や賠償の上限を見ますが、アカウントの帰属や報告の義務といった運用の論点は事業側が指摘しないと入りません。契約書を法務に回す前に、事業側で確認したい項目を一覧にしてください。
解約の条項では何を見ますか
予告期間の長さ、最低契約期間の有無、予告期間中も通常どおり業務を継続する旨の記載、引き渡しの対象の列挙です。予告が長いほど、変更を決めてから実際に移るまでが延びます。
制作した広告素材は契約終了後も使えますか
多くのひな形では権利が代理店側に残ります。使用を認める条項があっても改変は別なので、他社に運用を移す予定があるなら、改変の可否と編集可能な元データの引き渡しを締結時に決めてください。
再委託は禁止すべきですか
全面禁止にすると提案の幅が狭まります。事前の通知を条件に認め、再委託先の社名と担当範囲を開示させ、責任は元請けが負う形にするのが実務的です。
成果を契約で保証させることはできますか
数値を契約に書くと、その数値を達成しやすい施策に寄り、定義をめぐる争いも起きます。報告の頻度と様式、費用の内訳の開示、是正の手続きのように、状況を把握できる条項のほうが実際には効きます。
まとめ
- 契約の検討がマーケティング部門の外で行われるからです。法務は条文の整合を見ますが、運用で困る条項は運用を知らないと見つかりません
- 予告期間と、期間内に発生する費用の2つです。予告期間が長いと、変更を決めてから実際に移るまでが延びます
- 多くのひな形では、代理店側に残る形になっています。自社で作り替えたい素材があるなら、締結の前に扱いを決めます
- 全面的に禁止すると実務が回りません。事前の通知を条件にし、誰が実務を行うかが分かる形にします
- 業務の範囲と、引き渡しの条項の両方に書きます。どちらか一方だけだと、期間中は使えても終了時に引き上げられません
- 何に対する対価かの定義と、変動する条件です。料率だけを見て比較すると、含まれる業務の差が見えません
- 報告の義務と、費用の開示です。成果の保証ではなく、状況を把握できる条項が実際には役に立ちます
- 現行の契約書を読み、運用との食い違いを洗い出すところからです。実態と契約が離れている項目が、次に揉める場所です