広告運用のインハウス化|判断の基準と折衷案

手数料の削減より、ノウハウを自社に残す動機のほうが大きくなっています。
運用型広告が広告費の大半を占め、判断の蓄積が資産になったためです。
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目次
目次
- 広告運用のインハウス化は、いまなぜ検討されるのか
- 目的が二つ混ざると、判断がぶれる
- 内製に向く状況と、向かない状況はどう違うのか
- 予算規模だけを基準にしない
- 内製と外注の費用は、どう比べるのか
- 三年分を並べる様式を作る
- 折衷案には、どんな型があるのか
- 折衷案を選ぶときに決めること
- 移行は、どの順番で進めるのか
- 並走期間を、契約に入れる
- 移行がうまくいかないのは、何が原因か
- 学習の枠を、業務として確保する
- 内製に切り替えたあと、戻す判断はどう下すのか
- 戻すことを、失敗として扱わない
- 体制の組み替えは、どこから手をつけるのか
- よくある質問
- まとめ
手数料の削減より、ノウハウを自社に残す動機のほうが大きくなっています。
運用型広告が広告費の大半を占め、判断の蓄積が資産になったためです。
広告運用のインハウス化は、いまなぜ検討されるのか
手数料の削減より、ノウハウを自社に残す動機のほうが大きくなっています。
運用型広告が広告費の大半を占め、判断の蓄積が資産になったためです。
インハウス化は以前から議論のあるテーマですが、検討される理由が変わってきています。
費用の話から、体制の話に移っています。
背景にあるのが、運用型広告の比率です。
電通デジタルが2026年3月5日に公表した分析では、2025年のインターネット広告媒体費3兆3,093億円のうち、運用型が2兆9,352億円で構成比88.7%でした。
運用型は、設定して終わりではありません。
配信を続けながら、判断を継続する広告です。
判断を続ける主体がどこにあるかが、そのまま成果の差になります。
枠を買う広告であれば、買った時点で成果はほぼ決まりました。
運用型では、毎週の判断が積み上がります。
その判断の記録がどこに残るかが、翌年の成果を左右します。
記録が代理店にしか残らない状態では、委託先を変えた時点で振り出しに戻ります。
この構造が、ノウハウを社内に残したいという動機につながっています。
検討している企業は、少なくありません。
Testifyが2026年5月に実施した調査では、代理店に全面委託している企業の8割超が、1年以内のインハウス化を計画または検討していました。
内訳は決定または予定が52.9%、積極的に検討中が32.8%です。
同じ調査で、動機はノウハウの蓄積が56.7%、コスト削減が46.7%でした。
ノウハウの蓄積が費用の削減を上回っているのが、この数字の要点です。
費用が動機なら、内製化の前に契約の見直しという選択肢があります。
ノウハウが動機なら、内製化の範囲も変わります。
作業ではなく、判断の部分を社内に取り込むことになります。
目的が二つ混ざると、判断がぶれる
コスト削減とノウハウ蓄積は、同時に達成できる場面もありますが、短期では相反します。
人を採り、教育する期間は費用が増えます。
初年度は、ほぼ確実に費用が上がります。
採用費、教育の期間、ツールの契約料が新たに発生するためです。
この期間に費用の削減を目的として掲げていると、初年度の評価で失敗と判定されます。
判定された時点で、移行が止まります。
どちらを主目的にするかを先に決めると、移行中の判断が揺れません。
決めるのは、経営と合意する場です。
決めた目的は、評価の期間とセットで記録してください。
ノウハウの蓄積が目的なら、評価は三年で行うことになります。
費用の削減が目的なら、二年目以降の総額で評価します。
どちらにせよ、初年度の費用だけで判断しないことを先に合意してください。
動機はノウハウの蓄積が費用の削減を上回っています。二つは短期では相反するため、主目的を一つに決めて評価の期間とセットで記録してください。
内製に向く状況と、向かない状況はどう違うのか
媒体の数が少なく、配信の方針が安定している事業は内製に向きます。
扱う媒体が多く、季節で予算が大きく振れる事業は向きません。
同じ予算規模でも、内製の成立しやすさは事業によって違います。
向き不向きを先に見てください。
最初に見るのが、媒体の数です。
主力が一つか二つの媒体に集中している場合、社内で追い続けられます。
五つ以上の媒体を並行して使い、それぞれの仕様変更を追う必要がある場合は負荷が跳ね上がります。
Testifyの2026年5月の調査では、インハウス化の障壁として媒体のアップデートへの追随が難しいという回答が40.3%でした。
一人が追える媒体の数には、限りがあります。
週に数時間の学習の枠を確保しても、二つか三つが上限になります。
次に見るのが、予算の変動です。
年間を通して予算が平準化している事業は、社員の稼働が読めます。
繁忙期に予算が数倍になる事業では、繁忙期に合わせた人員を平時に抱えることになります。
平時の稼働が余ると、その人件費は無駄になります。
逆に平時に合わせた人員にすると、繁忙期に回りません。
この振れ幅が大きい事業は、変動費で持つほうが無理がありません。
三つ目が、施策の変化の速さです。
新商品が頻繁に出る、訴求を常に作り替える事業では、内製のほうが速く回ります。
社内で決めて社内で実行できるため、承認の往復がありません。
逆に、年間の方針が固まっていて運用が定型化している事業では、外部に出しても速度は落ちません。
四つ目が、社内の人員余力です。
判断できる人が社内にいるかどうかが、成立の条件になります。
一人が兼務している状態で内製に移すと、学習の時間が取れません。
時間が取れなければ、仕様変更に追いつけなくなります。
五つ目が、経営の期間の見方です。
三年で評価する経営なら、初年度の費用増を許容できます。
当期の費用で評価する経営では、初年度で止まります。
この点は、事業の条件ではなく経営の判断になります。
事業の条件と、内製の成立しやすさ
| 条件 | 内製に向く | 内製に向かない |
|---|---|---|
| 主要媒体の数 | 1つから2つ | 5つ以上 |
| 年間の予算変動 | 平準化している | 季節で数倍に振れる |
| 訴求の更新頻度 | 高い | 低い |
| 社内の人員余力 | 判断できる人がいる | 一人が兼務している |
| 経営の期間の見方 | 3年で評価する | 当期の費用で評価する |
予算規模だけを基準にしない
一定の予算を超えたら内製、という基準を置く会社があります。
手数料の絶対額で見れば、この基準にも根拠はあります。
ただし、媒体の数と変動で必要な人数が変わります。
同じ予算でも、媒体が一つなら一人で回り、五つなら三人でも足りません。
規模は判断材料の一つで、それだけで決めるものではありません。
五つの条件を並べて、いくつ満たすかで判定してください。
五つすべてを満たす会社は、多くありません。
三つ以上を満たすなら、部分的な内製から始められます。
二つ以下なら、内製化は難易度が高くなります。
その場合は、判断の部分だけを社内に取り込む形を検討してください。
判定の結果は、記録に残します。
翌年に条件が変わったかどうかを確認する材料になります。
媒体の数と予算の変動と訴求の更新頻度で判定します。予算規模だけを基準にせず、五つの条件のうちいくつを満たすかで判断してください。
内製と外注の費用は、どう比べるのか
手数料と人件費だけを並べても判断できません。
採用にかかる費用、教育の期間、欠員が出たときの穴埋めまで含めて比べます。
費用の比較は、インハウス化の議論で最も誤解の多いところです。
見えている費用と、見えていない費用があります。
代理店に支払う手数料は、請求書に出ます。
社員の給与も、人件費として把握できます。
この二つだけを比べると、予算規模が大きいほど内製が有利に見えます。
手数料は予算に比例して増え、人件費は増えないためです。
見えていない費用が、この計算から抜けています。
一つ目が、採用にかかる費用と期間です。
採用の費用は、紹介の手数料か媒体の掲載料として発生します。
期間は、募集から入社までで三か月前後かかります。
二つ目が、入社から独り立ちまでの教育期間です。
この期間も人件費は発生しますが、成果は出ません。
三つ目が、ツールの契約料です。
代理店が保有していたツールを、自社で契約することになります。
四つ目が、担当者が退職したときの空白期間の損失です。
一人体制であれば、退職と同時に運用が止まります。
五つ目が、仕様変更への追随にかかる学習の時間です。
これは費用として計上されませんが、確実に工数を消費します。
これらは予算書に項目として立ちにくく、比較から抜けがちです。
抜けたまま比較すると、内製が実際より安く見えます。
比較の期間は、三年で置いてください。
初年度は採用と教育の費用が乗るため、内製が高く出ます。
二年目以降に逆転するかを見ます。
一年で判断すると、移行の途中で引き返すことになります。
比較の結果を、一つの数字にしないでください。
費用の比較は、判断材料の一つです。
ノウハウを残すことが目的なら、費用が同等でも内製を選ぶ判断はあり得ます。
費用だけを根拠にすると、目的と判断がずれます。
三年分を並べる様式を作る
比較の様式を先に作っておくと、議論が短く済みます。
様式に入れる項目は、六つです。
媒体費、運用の対価、立ち上げの費用、ツールの費用、欠員時の損失、仕様変更への追随の工数。
このうち媒体費は、どちらでも同じです。
運用の対価は、外注なら手数料、内製なら人件費になります。
立ち上げは、外注なら契約と引き継ぎの工数、内製なら採用費と教育期間です。
ツールは、外注なら代理店が保有し、内製なら自社で契約します。
欠員時は、外注なら代理店が補充し、内製なら業務が止まります。
仕様変更への追随は、外注なら代理店が吸収し、内製なら自社で学習の時間が必要です。
この六項目を、年ごとに三年分並べます。
並べた結果を経営に出すと、判断の議論が費用の話だけで終わらなくなります。
どの項目を許容するかという議論になります。
手数料と人件費だけでは足りません。採用費、教育期間、ツール、欠員時の損失、学習の工数を含めて三年分を並べてください。
折衷案には、どんな型があるのか
全部を内製に移す必要はありません。
媒体を分ける、工程を分ける、期間を区切るという三つの折衷が実務では機能します。
インハウス化の議論は、やるかやらないかの二択になりがちです。
実際には、その間に選べる形がいくつもあります。
一つ目が、媒体で分ける形です。
主力の一媒体だけを内製に移し、残りは外部に置きます。
一つの媒体で運用の型を作ってから、次に広げます。
失敗したときの影響が限定されるのが、この形の利点です。
選ぶ媒体は、予算が最も大きい媒体ではなく、変動の小さい媒体にしてください。
変動が大きい媒体を最初に移すと、成果の変化が移行によるものか変動によるものか分かりません。
二つ目が、工程で分ける形です。
配分の設計と検証の判断を社内に置き、日々の調整と入稿は外部に残します。
判断は社内に蓄積し、作業の負荷は外に出す形になります。
ノウハウの蓄積が目的の場合、この形で目的の大半は達成できます。
人の採用も、この形なら一人で足ります。
作業を担う人ではなく、判断を担う人を一人置く形です。
三つ目が、期間を区切る形です。
半年間、代理店に社内への移管を含めた契約を結びます。
運用を並走し、手順と判断の基準を文書化してもらいます。
移管の支援を契約に含めると、引き継ぎの空白が減ります。
この形は費用がかかりますが、移行の速度と確実性は上がります。
人がまだ育っていない段階では、この形が現実的になります。
四つ目が、一部を社内に戻す形です。
検証と分析だけを社内に置き、実務は委託を続けます。
説明責任を自社で持ちたい場合に、この形が合います。
経営への説明を代理店の資料に頼らなくなります。
五つ目が、実務は委託し設計を内製にする形です。
戦略と指標の定義だけを社内に置きます。
人員が限られている会社では、この形から始めることになります。
一人でも成立する範囲です。
折衷案を選ぶときに決めること
折衷を選ぶときに、決めておく項目が三つあります。
どの範囲を、いつまでに、誰が持つか。
この三つを決めずに折衷にすると、どちらも中途半端になります。
範囲が曖昧なまま並走すると、同じ作業を二人が見る状態が続きます。
いつまでに、を決めないと、折衷のまま何年も過ぎます。
過ぎること自体は問題ではありませんが、判断をしていない状態が固定されます。
誰が持つか、を決めないと、その範囲の責任者が不在になります。
不在の範囲は、成果が落ちても誰も気づきません。
折衷は妥協ではなく、段階の設計として扱ってください。
段階として扱うなら、次の段階に進む条件も決めます。
進む条件は、成果の維持期間で置くのが実務的です。
三か月成果が維持されたら次の媒体に広げる、という形になります。
折衷は妥協ではなく段階の設計です。どの範囲をいつまでに誰が持つかと、次の段階に進む条件を同時に決めてください。
移行は、どの順番で進めるのか
アカウントの所有、計測の設計、運用の順です。
運用から先に移すと、数字の前後が比較できなくなります。
移行の順番を誤ると、切り替えの前後で成果が落ちた原因を特定できなくなります。
特定できなければ、戻す判断も取れません。
まず、所有を移します。
広告アカウントと計測環境の所有を、社内の名義にします。
運用は代理店が続けたままで構いません。
所有が社内にあれば、いつでも引き継げる状態になります。
この段階の完了の条件は、社内から管理画面を操作できることです。
名義だけ変えて権限が渡っていない状態は、完了ではありません。
次に、計測を揃えます。
コンバージョンの定義、計測の仕様、レポートの集計方法を社内で作り直します。
ここが代理店の定義のままだと、移行後に数字がつながりません。
つながらなければ、移行の効果も測れません。
同意管理の設定によって、広告データの扱いが変わります。
掲載時点の最新の公式ガイドラインで確認してください。
この段階の完了の条件は、過去のデータと新しいデータが接続することです。
接続していなければ、比較の基準が失われます。
三つ目が、並走です。
社内が操作し、代理店が確認する形にします。
この期間に、判断の基準を社内に移します。
なぜその調整をしたのかを、毎回聞いてください。
完了の条件は、一か月成果が維持されることです。
維持されなければ、並走の期間を延ばします。
四つ目が、主力媒体の移管です。
一媒体を社内運用に切り替えます。
完了の条件は、三か月成果が維持されることです。
一か月では、季節の振れと区別がつきません。
五つ目が、範囲の拡大です。
残る媒体を、順次移管します。
各媒体で、同じ条件を満たしてから次に進んでください。
同時に複数を移すと、原因の特定ができません。
移行の段階と、次に進む条件
| 段階 | やること | 次に進む条件 |
|---|---|---|
| 所有の移管 | アカウントと計測環境を社内名義にする | 社内から管理画面を操作できる |
| 計測の整備 | 定義と集計方法を社内で確定する | 過去データと新データが接続する |
| 並走 | 社内が操作し代理店が確認する | 1か月成果が維持される |
| 主力媒体の移管 | 1媒体を社内運用に切り替える | 3か月成果が維持される |
| 範囲の拡大 | 残る媒体を順次移管する | 各媒体で同じ条件を満たす |
並走期間を、契約に入れる
移行の契約を結ぶとき、並走の期間と、その間の手数料の扱いを決めてください。
決めていないと、契約が切れた翌日から社内が手探りで始めることになります。
並走の期間は、三か月を目安にしてください。
一か月では、月次の一巡しか経験できません。
手数料は、並走の期間だけ通常より下げる交渉が成立することがあります。
社内が操作するため、代理店の工数は減るためです。
交渉が成立しない場合でも、並走の価値は費用を上回ります。
引き継ぎの空白が生む損失のほうが、はるかに大きくなります。
並走の期間に、社内が記録すべきものも決めておいてください。
判断の基準、設定の意図、過去の検証の結果の三つです。
この三つが文書になっていれば、並走が終わっても判断ができます。
文書にせず口頭で聞いただけでは、数か月で忘れます。
所有、計測、運用の順に移します。並走の期間を三か月契約に入れ、判断の基準と設定の意図と過去の検証の結果を文書に残してください。
移行がうまくいかないのは、何が原因か
人の不足よりも、学び続ける時間が確保されていないことが原因になります。
運用を回すだけで一日が終わる体制では、仕様変更に追いつけません。
移行の失敗には、いくつかの共通した型があります。
Testifyの2026年5月の調査では、インハウス化の障壁として教育の時間や知見の不足が44.8%、媒体のアップデートへの追随が40.3%、人材の採用が36.7%挙げられていました。
上位の三つは、いずれも人と知見に関する項目です。
費用や技術の問題は、上位に入っていません。
最も多いのが、学習の時間が業務に入っていないことです。
媒体の仕様は、継続的に変わります。
検索広告では、従来の配信方式から新しい方式への移行が段階的に進んでいます。
こうした変更を追う時間を業務時間の中に確保しておかないと、設定が古いまま運用されます。
学習の枠は、週に数時間を業務として確保してください。
空いた時間にやる形にすると、空く週がありません。
二つ目が、一人に集約してしまうことです。
社内に運用ができる人が一人だけの状態は、外注より脆い体制になります。
その人が休むと運用が止まり、退職すると知見ごと失われます。
外注なら、担当者が交代しても組織として継続します。
最低でも、手順と判断の基準を文書化し、二人目が読める状態にしてください。
文書があれば、一時的な不在は乗り切れます。
三つ目が、成果が落ちた原因を切り分けられないことです。
移行の直後は、季節要因、学習の再開、競合の動きが同時に効きます。
移行の前に、比較の基準となる期間の数字を確定しておいてください。
直近12か月の媒体別の実績を、定義とあわせて保存します。
四つ目が、目的が共有されていないことです。
経営が費用の削減だと思い、現場がノウハウの蓄積だと思っている状態です。
初年度の費用増が出た時点で、評価が分かれます。
主目的を経営と合意し、記録しておいてください。
五つ目が、並走がないことです。
契約が切れた翌日から、社内が手探りで始めることになります。
移行支援を契約に含めていれば、この問題は起きません。
含めていない場合は、更新の交渉で追加してください。
学習の枠を、業務として確保する
学習の時間は、意欲の問題ではありません。
枠の問題です。
週に何時間を学習に充てるかを、業務の予定として確保してください。
月曜の午前を学習の時間にする、といった形が実務では続きます。
確保した時間に何をするかも、決めておきます。
媒体の公式の更新情報を読む、変更点を手順書に反映する、検証の結果をまとめる。
この三つを回すだけで、仕様変更への追随はかなり進みます。
何をするか決めていないと、枠があっても運用の作業で埋まります。
学習に充てた時間は、月次で記録してください。
記録がなければ、確保できているかどうかが分かりません。
記録が二か月続けてゼロなら、体制が回っていません。
人を増やすか、範囲を戻す判断が必要になります。
この判断の基準も、移行の前に決めておいてください。
移行の障壁は人と知見に集中しています。週の学習の枠を業務として確保し、手順と判断の基準を二人目が読める形で文書化してください。
内製に切り替えたあと、戻す判断はどう下すのか
戻す条件を移行の前に決めておきます。
決めずに始めると、うまくいかない期間が続いても誰も引き返せません。
インハウス化は、不可逆の決定ではありません。
戻す選択肢を残しておくほうが、移行中の判断が冷静になります。
戻す条件を決めずに始めると、うまくいかない期間が続いても誰も言い出せません。
移行を推進した人が、失敗を認めることになるためです。
条件を先に決めておけば、条件に該当したかどうかの判断になります。
誰かの失敗ではなく、事実の確認になります。
戻す条件は、三つの観点で決めます。
成果の水準、期間、体制です。
成果の水準は、移行前との比較で置きます。
数字は説明のための仮の値です。
移行後6か月で獲得単価が移行前の1.2倍を超えたままなら再検討する、といった形で決めます。
この数字を決めるには、移行前の実績が保存されている必要があります。
期間は、季節の一巡を含む長さにしてください。
三か月では、季節要因と移行の影響が区別できません。
体制の観点では、担当者が一人のままかどうかを見ます。
一人のままなら、成果が出ていても脆い状態が続いています。
学習の観点では、仕様変更に追いつけているかを見ます。
追いつけていなければ、媒体ごとに外部を使う判断になります。
社内の負荷の観点では、他の施策が止まっていないかを見ます。
運用に人手を取られて他が止まっているなら、範囲を絞ります。
経営の評価の観点では、費用だけで判断されていないかを見ます。
判断されているなら、目的の合意を取り直します。
戻すときに、全部を戻す必要はありません。
うまくいかない範囲だけを外に戻す判断があります。
判断は社内に残し、作業だけを戻す形が取りやすい選択になります。
この形なら、ノウハウの蓄積は続きます。
戻すことを、失敗として扱わない
移行を試みたこと自体で、社内には判断の経験が残ります。
どの判断が難しかったか、どの作業に時間がかかったか。
この経験があれば、次に委託先を選ぶときの目が変わります。
何を任せるべきかが、実感として分かるためです。
戻した後の委託先との関係も、変わります。
内製を経験した発注者は、提案の妥当性を判断できます。
判断できる発注者に対しては、委託先の提案も変わります。
説明が具体的になり、根拠も示されるようになります。
戻す判断をした記録も、残してください。
なぜ戻したのか、どの条件に該当したのか。
記録があれば、翌年に同じ議論を最初からやり直さずに済みます。
条件が変わったときに、再度検討する材料にもなります。
戻す条件を成果と期間と体制の三つで先に決めてください。全部を戻さず、判断は社内に残して作業だけを戻す形が取りやすい選択です。
体制の組み替えは、どこから手をつけるのか
目的を一つに絞ることからです。
ノウハウなのか費用なのかが決まると、選ぶ折衷案と移行の順番が決まります。
インハウス化は、体制の変更を伴う判断です。
順番を守ると、途中で引き返す余地を残したまま進められます。
最初にやるのは、目的を一つに絞って経営と合意することです。
ここが決まらないと、後のすべての判断がぶれます。
合意の場で決めるのは、三つです。
主目的、評価する期間、戻す条件。
とくに評価の期間を決めておかないと、初年度の費用増で議論が止まります。
三年で評価する、という合意を先に取ってください。
次に、媒体数と予算変動から成立性を確認します。
五つの条件のうち、いくつを満たすかで判定します。
三つ目が、三年分の費用を内製と外注で並べることです。
見えていない費用を含めて、六項目で比較します。
四つ目が、折衷案の型を選んで範囲を決めることです。
どの範囲を、いつまでに、誰が持つかを決めます。
五つ目が、アカウントと計測環境の所有を移すことです。
運用は代理店が続けたままで構いません。
六つ目が、並走の条件を含めて契約を見直すことです。
ここまでで、移行の準備が整います。
体制の組み替えを進める順番
| 順番 | やること | 関わる人 | 期間の目安 |
|---|---|---|---|
| 1 | 目的を一つに絞り経営と合意する | 経営とマーケ責任者 | 2週間 |
| 2 | 媒体数と予算変動から成立性を確認する | マーケ責任者 | 2週間 |
| 3 | 三年分の費用を内製と外注で並べる | マーケ責任者と経理 | 2週間 |
| 4 | 折衷案の型を選び範囲と期限を決める | 経営とマーケ責任者 | 2週間 |
| 5 | アカウントと計測環境の所有を移す | マーケと情報システム | 1か月 |
| 6 | 並走の条件を含めて契約を見直す | 経営と代理店 | 1か月 |
数字は説明のための仮の値です。
年間の媒体費が1億円で手数料が20%なら2,000万円、内製で必要な人員が2名で総額1,800万円という形で並べます。
この比較に、移行期の成果の低下を足してください。
移行後6か月で獲得単価が2割上がるなら、その分の損失も費用になります。
足すと、初年度の差は逆転することがあります。
それでもノウハウの蓄積が目的なら、進める判断はあり得ます。
移行の経過を追う数字
| 数字 | 見る頻度 | 目安の考え方 |
|---|---|---|
| 獲得単価と獲得件数 | 毎月 | 移行前の水準と比較する |
| 社内の運用にかかる工数 | 毎月 | 想定した人数で回っているか |
| 学習に充てた時間 | 毎月 | 仕様変更に追える体制か |
| 運用を担える人数 | 四半期 | 一人に集中していないか |
| 三年累計の費用の見込み | 四半期 | 当初の試算から乖離していないか |
移行前の数字は、凍結して残してください。
移行の判断を後から検証するには、移行前の数字が要ります。
直近12か月の媒体別の実績を、定義とあわせて保存します。
定義を残さないと、数字だけあっても比較になりません。
ノウハウの蓄積が目的なら、何をもって蓄積とするかを決めてください。
判断の記録、手順の文書、検証の結果の三つが候補になります。
残す形式と置き場所を決めてから移行を始めると、後から探す手間がなくなります。
決めずに始めると、個人の手元に記録が散らばります。
更新の頻度も決めます。
月次で判断の記録を追記する形が、実務では続きます。
着手点は目的を一つに絞ることです。移行前の12か月の実績を定義ごと凍結し、ノウハウを残す形式と置き場所を決めてから始めてください。
広告運用のインハウス化の判断で迷う場合は、無料相談で現状を見てもらうところから始められます。
運用体制ごと見直す段階ならWeb集客改善サービスもあります。
よくある質問
広告予算がいくらを超えたらインハウス化すべきですか
予算規模だけでは決まりません。主要媒体の数、年間の予算変動、訴求の更新頻度、社内の人員余力、経営の期間の見方の五つで判定してください。媒体が5つ以上あり季節で予算が数倍に振れる事業は、規模が大きくても成立しにくくなります。
インハウス化の費用はどう比べればいいですか
手数料と人件費だけでは足りません。採用費、教育期間、ツール契約料、欠員が出たときの空白、学習の工数を含めて、三年分で比べてください。初年度は内製が高く出るため、一年での判断は避けます。
全部を内製に移さないといけませんか
媒体を分ける、工程を分ける、期間を区切るという折衷があります。配分と検証の判断だけを社内に置き、日々の調整を外部に残す形でも、ノウハウ蓄積という目的の大半は達成できます。
移行はどの順番で進めればいいですか
広告アカウントと計測環境の所有を先に社内へ移し、次に指標の定義と集計方法を整え、最後に運用を移します。運用から先に移すと、切り替え前後の数字が比較できなくなります。
インハウス化してうまくいかない場合、戻せますか
戻せます。成果の水準と期間と体制の三つで、戻す条件を移行の前に決めておいてください。判断は社内に残し、作業だけを外部に戻す形も取れます。試みたこと自体が、次に委託先を選ぶときの判断材料になります。
まとめ
- 手数料の削減より、ノウハウを自社に残す動機のほうが大きくなっています。運用型広告が広告費の大半を占め、判断の蓄積が資産になったためです
- 媒体の数が少なく、配信の方針が安定している事業は内製に向きます。扱う媒体が多く、季節で予算が大きく振れる事業は向きません
- 手数料と人件費だけを並べても判断できません。採用にかかる費用、教育の期間、欠員が出たときの穴埋めまで含めて比べます
- 全部を内製に移す必要はありません。媒体を分ける、工程を分ける、期間を区切るという三つの折衷が実務では機能します
- アカウントの所有、計測の設計、運用の順です。運用から先に移すと、数字の前後が比較できなくなります
- 人の不足よりも、学び続ける時間が確保されていないことが原因になります。運用を回すだけで一日が終わる体制では、仕様変更に追いつけません
- 戻す条件を移行の前に決めておきます。決めずに始めると、うまくいかない期間が続いても誰も引き返せません
- 目的を一つに絞ることからです。ノウハウなのか費用なのかが決まると、選ぶ折衷案と移行の順番が決まります