
支出は契約の前に発生し、回収は契約の後に何か月もかけて進むからです。
同じ期のなかで費用と収益が対応せず、投資した期ほど利益が薄く見えます。
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目次
目次
- BtoB SaaSの予算が、単年度の枠と噛み合わないのはなぜか
- 予算の議論が噛み合わなくなる場面
- 獲得にかけてよい上限は、何から出すのか
- 3つの数字から上限を出す
- 回収期間を、予算の言葉にどう翻訳するのか
- 回収期間の出し方
- 新規の獲得と、既存への投資で、予算をどう分けるか
- 埋めなければならない穴を先に出す
- 期中に予算を増減させる判断を、どう決めておくか
- 増やす条件と減らす条件を、先に書く
- 予算が足りないとき、何から削るのか
- 削る順番の考え方
- 経営への説明で、必ず確認されること
- 1枚に載せる内容
- 予算の組み立ては、どこから着手するのか
- 見る数字を決める
- よくある質問
- まとめ
支出は契約の前に発生し、回収は契約の後に何か月もかけて進むからです。
同じ期のなかで費用と収益が対応せず、投資した期ほど利益が薄く見えます。
BtoB SaaSの予算が、単年度の枠と噛み合わないのはなぜか
支出は契約の前に発生し、回収は契約の後に何か月もかけて進むからです。
同じ期のなかで費用と収益が対応せず、投資した期ほど利益が薄く見えます。
広告費や人件費は、契約が決まる前に出ていきます。
一方で収益は、契約した翌月から少しずつ立ちます。
年間契約で前払いを受けていても、会計上の収益は利用期間に応じて分割されます。
このずれが、単年度で予算を組む仕組みと合いません。
獲得を増やすほど、その期の損益は悪化します。
成長している事業ほど、短期の利益は薄く見えます。
予算の議論が噛み合わなくなる場面
財務側は、期の費用と期の売上を対応させて見ます。
マーケティング側は、使った費用が翌期以降に作る収益で説明しようとします。
同じ数字を見ているのに、良し悪しの判断が逆になります。
費用と収益が対応しない構造
| 項目 | 発生する時期 | 効いてくる時期 |
|---|---|---|
| 広告費 | 施策を打った月 | 翌月以降の契約 |
| 展示会やイベント | 開催月 | 数か月後の商談 |
| コンテンツ制作 | 制作した月 | 半年から1年後の流入 |
| 人件費 | 毎月 | 継続的 |
| 契約からの収益 | 契約の翌月以降 | 利用が続く限り |
先に決めておくべきこと
単年度の利益を優先するのか、収益の積み上げを優先するのか。この方針を期初に合意しておかないと、期中に何度も同じ議論が起きます。どちらが正しいという話ではなく、事業の段階で変わります。
獲得にかけてよい上限は、何から出すのか
1件の顧客が契約期間を通じて生む粗利から出します。
月額と継続期間と粗利率の3つが揃わないと、上限の計算はできません。
広告予算を前年比で決める進め方があります。
この決め方には、いくら使ってよいのかという根拠がありません。
3つの数字から上限を出す
平均の月額と、平均の継続期間と、提供にかかる原価を除いた粗利率。
この3つを掛け合わせると、1件あたりの生涯の粗利が出ます。
その一部を獲得に充てる、という形で上限を置きます。
獲得上限の計算に必要な数字
| 数字 | 出し方 | 注意点 |
|---|---|---|
| 平均月額 | 新規契約の月額の平均 | セグメント別に出す |
| 平均継続期間 | 解約率の逆数 | 新しいプランでは期間が短く出る |
| 粗利率 | 売上から提供原価を引いた率 | サポート人件費を含めるか決める |
| 1件あたりの生涯粗利 | 月額×継続期間×粗利率 | 上限の計算の土台 |
| 獲得に充てる比率 | 経営が決める配分 | 成長期は高く、利益優先期は低く |
継続期間を長く見積もらない
継続期間は、解約率から逆算します。
月次の解約率が1%なら、計算上の継続期間は100か月です。
数字は説明のための仮の値です。
ただし、この計算をそのまま使うと上限が実態より大きく出ます。
まだ8年の実績がない事業で、100か月分の粗利を前提に投資するのは危険です。
上限の計算には、24か月や36か月といった、確認できる範囲で区切った期間を使います。
セグメントごとに上限が違う
小規模の顧客は単価が低く、解約も起きやすい傾向があります。大企業の顧客は単価が高く、継続も長くなります。同じ上限を全体に適用すると、片方では使いすぎ、もう片方では使わなすぎになります。
回収期間を、予算の言葉にどう翻訳するのか
獲得にかけた費用を、何か月分の粗利で取り戻せるかで表します。
金額の大小ではなく期間で示すと、財務側と話が通じます。
生涯の粗利で説明すると、財務側からは遠い未来の話に聞こえます。
回収までの期間で示すと、資金繰りの話として受け取られます。
回収期間の出し方
1件あたりの獲得費用を、1件あたりの月間粗利で割ります。
出てきた月数が、投資を取り戻すまでの期間です。
数字は説明のための仮の値です。
獲得費用が30万円、月額15万円で粗利率80%なら、月間粗利は12万円、回収は2.5か月です。
回収期間で見たときの判断
| 回収期間 | 意味合い | 予算の扱い |
|---|---|---|
| 3か月以内 | 同じ期のうちに回収が進む | 増やす余地が大きい |
| 6か月程度 | 期をまたぐが1年以内で回収 | 標準的な範囲 |
| 12か月を超える | 翌期の収益を前借りしている | 資金と方針の確認が要る |
| 継続期間より長い | 回収できない | 施策の見直しが必要 |
回収期間で予算の枠を決める
回収期間の上限を先に決めておくと、月次で予算を動かす判断が自動化できます。
獲得費用が上がって回収期間の上限を超えたチャネルは、その月の配分を減らします。
この運用にすると、期末に慌てて止める必要がなくなります。
期間だけで決めない
回収が早いチャネルだけに寄せると、既存の顧客層に近い相手ばかりを取りにいきます。新しい市場を試す枠を、別に確保しておきます。この枠は回収期間では評価せず、接点が作れたかどうかで見ます。
新規の獲得と、既存への投資で、予算をどう分けるか
解約で失う収益を先に見積もり、それを埋める分を確保してから新規に配分します。
順番を逆にすると、新規の目標が実態より大きく膨らみます。
予算の議論は、新規の獲得から始まることが多くあります。
ストック型の事業では、この順番が合いません。
埋めなければならない穴を先に出す
現在の収益に、想定の解約率を掛けます。
それが、何もしなければ来期に失う金額です。
新規の目標は、この額を埋めたうえで、成長分を積む形になります。
予算配分を決める順番
| 順番 | 検討すること | 出てくる数字 |
|---|---|---|
| 1 | 来期に失う収益を見積もる | 現在の収益×解約率 |
| 2 | 既存の維持と拡大にかける額を決める | 定着支援と案内の費用 |
| 3 | 既存からの拡大で見込める額を出す | 上位プラン移行と増席 |
| 4 | 目標との差を新規で埋める | 必要な新規契約額 |
| 5 | 回収期間の上限から必要な予算を逆算 | 新規獲得の予算 |
維持への投資が後回しになる理由
維持の施策は、成果が数字として見えにくいという性質があります。
解約しなかった顧客は、何も起きていないように見えます。
だから予算の議論で削られやすくなります。
Macbee Planetが2025年12月に実施した調査では、BtoBで予算を増やす回答が52.3%でした。
同じ調査で、削減の対象としてCRMやリテンションが上位に挙がっています。
増やすときも削るときも、維持の側が動かされやすいことが分かります。
維持の投資を、金額で説明する
解約率が0.2ポイント下がると、年間でいくら収益が残るかを計算します。数字は説明のための仮の値です。月額の合計が1億円で、月次解約率が1.5%から1.3%になれば、月に20万円分の収益が残ります。1年では、積み上がりの効果を含めてさらに大きくなります。この形にすると、維持の予算が獲得の予算と同じ土俵で比較できます。
期中に予算を増減させる判断を、どう決めておくか
判断の条件を期初に文書にします。
条件を決めずに期中の増減を議論すると、決裁に時間がかかり、機会も損失も大きくなります。
運用型の広告は、月単位で配分を変えられます。
その柔軟さを活かせるかどうかは、社内の決裁の速さで決まります。
増やす条件と減らす条件を、先に書く
期中の予算変更の条件を、項目ごとに見ていきます。
回収期間が上限内で件数が伸びているについては、判断は増やす、条件として書いておくことは増額の上限と決裁者。
回収期間が上限を超えたについては、判断は減らす、条件として書いておくことは何か月続いたら減らすか。
獲得した顧客の質が落ちているについては、判断は減らす、条件として書いておくことは質をどの数字で見るか。
新しい市場の試行については、判断は別枠で維持、条件として書いておくことは評価しない期間の長さ。
既存の拡大が想定を上回るについては、判断は新規の目標を下げる、条件として書いておくことは下げてよい範囲。
決裁の速さを設計に含める
月に一度の会議でしか変更できない体制だと、悪化に気づいてから止まるまで最長で2か月かかります。
一定額までは担当者の判断で動かせる範囲を作っておきます。
金額の上限と、事後報告の形式を決めておけば、統制は保てます。
増やすときのほうが難しい
減らす判断は通りやすく、増やす判断は止まりがちです。増額の提案には、回収期間と、その配分で取れる件数の見込みを添えます。上限額をあらかじめ稟議に含めておくと、期中の再申請が不要になります。
予算が足りないとき、何から削るのか
回収期間の長い順に削ります。
成果の分かりにくい施策から削ると、翌期の入口が細ります。
削減の議論では、効果が測りにくい施策が先に候補になります。
この順で削ると、短期の数字は守れても、翌期以降の流入が減ります。
削る順番の考え方
回収期間が長く、かつ代替のある施策から削ります。
回収が早い施策は、削ると収益が直接減ります。
効果が測りにくいが翌期の入口を作っている施策は、削減の影響が遅れて出ます。
施策ごとの削減の影響が出る時期を、項目ごとに見ていきます。
運用型広告については、削った月に起きることは流入と商談が即座に減る、数か月後に起きることは収益の積み上がりが止まる。
展示会やイベントについては、削った月に起きることは当月の変化は小さい、数か月後に起きることは数か月後の商談が減る。
コンテンツ制作については、削った月に起きることは当月の変化はない、数か月後に起きることは半年後以降の流入が減る。
既存顧客への案内については、削った月に起きることは当月の変化は小さい、数か月後に起きることは解約と拡大の数字が悪化する。
指名検索を増やす施策については、削った月に起きることは当月の変化はない、数か月後に起きることは獲得単価が徐々に上がる。
一律の削減を避ける
全施策を一律で2割削る進め方は、判断を先送りしているだけです。
回収の早い施策まで削ることになり、収益が減ります。
削るなら、施策単位で止めるか続けるかを決めます。
止めた施策の再開コストを見る
制作の体制や、外部のパートナーとの関係は、一度止めると再開に時間がかかります。止める判断のときに、再開までにかかる期間も並べて議論します。
経営への説明で、必ず確認されること
その予算を使うと、いつ、いくらの収益になるのかです。
件数と獲得単価だけでは、説明として成立しません。
マーケティングの予算説明が通らないとき、原因は金額の大きさではないことが多くあります。
事業の数字とつながっていないことが原因です。
1枚に載せる内容
経営向けの1枚に載せる項目を、項目ごとに見ていきます。
前提となる事業目標については、内容は来期の収益目標と、そのうち新規で作る額。
失う収益の見積もりについては、内容は現在の収益に解約率を掛けた額。
必要な新規契約額については、内容は目標から既存の拡大分を引いた額。
必要な件数については、内容は新規契約額を平均月額で割った数。
必要な予算については、内容は件数×許容できる獲得費用。
回収期間については、内容は何か月で投資を取り戻すか。
未達のリスクについては、内容はどの前提が崩れると届かないか。
役職によって確認される点が違う
Testifyが2026年5月に実施した調査では、代理店への不満の内容が役職で分かれていました。
経営層は費用が成果に見合わないが56.3%、マーケティング責任者は成果不振の説明が不十分が53.1%です。
社内の説明でも同じ分かれ方が起きます。
経営層には、費用と収益の対応と回収の期間を示します。
責任者には、想定どおりに進まなかったときに何を見て何を変えるかを示します。
未達の条件を先に出す
すべてうまくいった場合の数字だけを示すと、未達のときに説明ができなくなります。どの率が何ポイント下がると届かないかを、先に共有しておきます。これを出しておくと、期中の増減の議論も早く進みます。
予算の組み立ては、どこから着手するのか
解約率と粗利率を確定させるところからです。
この2つが出ていないと、獲得にかけてよい上限が計算できません。
予算の作業の大半は、配分を決めることではなく、上限を計算できる状態を作ることです。
予算づくりの進め方を、項目ごとに見ていきます。
1については、やることはセグメント別の平均月額と解約率を出す、期間の目安は2週間。
2については、やることは提供原価を洗い出して粗利率を確定する、期間の目安は2週間。
3については、やることは1件あたりの生涯粗利と許容獲得費用を出す、期間の目安は1週間。
4については、やることは回収期間の上限を経営と合意する、期間の目安は1週間。
5については、やることは既存の維持と拡大の予算を先に確保する、期間の目安は1週間。
6については、やることは残りを新規に配分し、期中の変更条件を文書化する、期間の目安は2週間。
見る数字を決める
数字は説明のための仮の値です。
平均月額15万円、粗利率80%、確認できる継続期間を24か月と置くと、1件あたりの生涯粗利は288万円です。
そのうち3分の1を上限にするなら、許容できる獲得費用は96万円になります。
回収期間は8か月です。
期中に追いかける数字と頻度を、項目ごとに見ていきます。
チャネル別の獲得費用については、見る頻度は毎週、判断に使う場面は配分を動かすとき。
回収期間については、見る頻度は毎月、判断に使う場面は増額と減額の判断。
解約率については、見る頻度は毎月、判断に使う場面は上限の前提が崩れていないか。
既存の拡大額については、見る頻度は毎月、判断に使う場面は新規の必要額が変わるか。
消化率については、見る頻度は毎月、判断に使う場面は期末の余りと不足の見込み。
獲得月別の残存率については、見る頻度は四半期、判断に使う場面は上限の前提を置き直すか。
粗利率の定義を固めておく
提供にかかる原価にサポートの人件費を含めるかどうかで、粗利率は大きく変わります。
どちらでも構いませんが、期の途中で変えないことです。
定義を文書に残し、経営と合意しておきます。
期末の余りを持ち越せるかを確認する
年度をまたぐ繰り越しができない予算制度では、期末に無理な消化が起きます。
制度として難しい場合は、期初の配分で後半を厚めにしておく方法があります。
予算の根拠づくりで判断に迷う場合は、無料相談で現状の数字を一緒に整理するところから始められます。配分の設計ごと見直す段階ならWeb集客改善サービスもあります。
よくある質問
広告予算は前年比で決めてもいいですか
前年比には、いくらまで使ってよいかという根拠がありません。1件あたりの生涯粗利から許容できる獲得費用を出し、そこから必要な予算を逆算してください。前年の数字は妥当性の確認に使います。
回収期間は何か月なら妥当ですか
一律の正解はなく、資金の余裕と成長方針で変わります。目安として、回収期間が平均継続期間を超えていれば投資として成立していません。期初に上限を決めて、その範囲で運用してください。
継続期間は解約率の逆数で出していいですか
計算上はそうなりますが、実績のない期間まで前提にすると上限が過大になります。24か月や36か月など、自社で確認できる範囲に区切った期間を使ってください。
予算が足りないとき、何から削ればいいですか
回収期間が長く、代替のある施策からです。効果が測りにくい施策を先に削ると、翌期以降の入口が細ります。一律の削減ではなく、施策単位で止めるか続けるかを決めてください。
経営に予算を説明するとき、何を出せばいいですか
予算と、それが作る収益と、回収までの期間の3点です。あわせて、どの前提が崩れると未達になるかを先に共有しておくと、期中の増減の判断が早くなります。
まとめ
- 支出は契約の前に発生し、回収は契約の後に何か月もかけて進むからです。同じ期のなかで費用と収益が対応せず、投資した期ほど利益が薄く見えます
- 1件の顧客が契約期間を通じて生む粗利から出します。月額と継続期間と粗利率の3つが揃わないと、上限の計算はできません
- 獲得にかけた費用を、何か月分の粗利で取り戻せるかで表します。金額の大小ではなく期間で示すと、財務側と話が通じます
- 解約で失う収益を先に見積もり、それを埋める分を確保してから新規に配分します。順番を逆にすると、新規の目標が実態より大きく膨らみます
- 判断の条件を期初に文書にします。条件を決めずに期中の増減を議論すると、決裁に時間がかかり、機会も損失も大きくなります
- 回収期間の長い順に削ります。成果の分かりにくい施策から削ると、翌期の入口が細ります
- その予算を使うと、いつ、いくらの収益になるのかです。件数と獲得単価だけでは、説明として成立しません
- 解約率と粗利率を確定させるところからです。この2つが出ていないと、獲得にかけてよい上限が計算できません